研究領域 | 配位プログラミング ― 分子超構造体の科学と化学素子の創製 |
研究課題/領域番号 |
24108721
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北河 康隆 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60362612)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 量子化学 / 多核遷移金属錯体 / 強相関電子系 / 物性 / 分子素子 |
研究実績の概要 |
多核遷移金属錯体は、次世代の分子素子として大変注目されており、その実現に向けた研究が活発に行われている。本研究は、その過程で最も基本的となる、「構造・電子状態・物性発現の相関」を量子化学計算により明らかにし、分子素子設計のための指針を導出することを目的とした。特に構造と電子状態及び磁性・伝導性・光物性の関係を切り口として研究を進め以下の(1)~(5)の点で成果を上げた。 (1)大塩先生のグループで合成された(VO)n環状錯体におけるVO間の磁気的相互作用を密度汎関数(DFT)法で見積もることを行った。特に、基底関数依存性をJ値から除く方法を開発し、既存の汎関数と基底関数を評価することに成功した。(2)大塩先生のグループで合成された、シアン化物イオン架橋Fe-Co環状4核錯体の電子状態、磁性そして光吸収特性をDFTおよびTDDFT計算により明らかにした。TDDFT計算により励起状態を探ることにより、810nmと819nmにFeイオンからCoイオンに遷移する2つのIVCTバンドがあることを示した。また、HS状態でFe-Co間の磁気的相互作用も求めることに成功した。(3)西原先生のグループで合成されたBODIPY配位子およびその類似配位子を用いたZn(II)錯体の分子構造・電子状態および電荷移動をDFTおよびTDDFT法により明らかにした。DFT計算の結果、heteroleptic錯体とすることで、HOMOとLUMOがうまく一つずつの配位子に局在し、CT遷移が起こりやすくなっていることを明らかにした。(4)棚瀬先生のグループで合成されたPd8核一次元錯体の電子状態および励起状態と分子変形や溶媒効果の関係をDFTおよびTDDFT法により明らかにした。(5)巨大な巨大ビラジカル分子の構造最適化のために、低計算機コストで計算精度を上げる新規手法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本新学術領域研究「配位プログラミング」には平成22年度より参画させて頂いた。最初は基礎的な手法開発・検証から徐々に実在分子の計算へと進めることができている。平成24年度は、(a)西原グループの錯体に関しては、DFT法による分子構造の最適化と、分子軌道に解析による電子移動メカニズムの解明、(b)棚瀬グループの錯体では、TDDFT計算による電子状態解明と金電極との接合構造の設計、(c)大塩グループの錯体では、DFT計算による電子状態とJ値の詳細な解析、TDDFT法による励起状態解析を掲げて研究をスタートさせたが、上述の研究実績に記したように、概ね達成できているのではないかと考えている。論文も、共同研究者と連名で2報、自身のグループで4報の合計6報出版することができ、また、現在執筆中および執筆予定の論文も複数抱えていることからも、研究は概ね順調に進んでいるのではないかと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、平成25年度は、より分子素子の設計指針構築を意識した研究を進める予定である。具体的には、(a)西原グループの錯体では、中心金属の組み合わせによるCTの効率化の予測と、実際に金電極を付けた電気伝導計算による伝導度の予測、(b)棚瀬グループの錯体では、I-V曲線の予測、(c)大塩グループの錯体では、光誘起電子移動に有効な軌道と構造変異の関係解明の3点が主たる内容である。これらは、さらに一段高い理論化学的にも高度な内容であるため、蓄積したデータと経験を生かし、研究を進めなければならない。経験、ノウハウなどは十分に得られており、その点は心配ないと考えている。加えて、得られた結果は速やかに実験研究へとフィードバックする必要があり、共同研究者の先生方とのさらに密接に連携をとることを予定している。また本年度は最終年度ということから、結果をより系統的にまとめることにより、総合的に分子素子開発に向けた設計指針を構築することも方針としている。
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