スルフィド基やセレニド基を持つモリブデン(IV)錯体を合成し、末端配位子の効果を系統的に議論した。結晶構造解析や分光学的性質などのシュミュレーションからモリブデン錯体の電子構造解析をおこなった。この結果、末端配位子がオキソからスルフィド、セレニドへと変化するにつれて、LUMO+3のエネルギー順が下がり、LUMO+2の軌道と入れ替わることが明らかとなった。電荷遷移もこの順で長波長側に観測されることと一致した。 スルフィド基やセレニド基を持つモリブデン(VI)錯体も合成し、分光学的性質における末端配位子の効果を系統的に議論した。計算により、それらの三次元構造も求めて、末端配位基との結合長についても考察を加えた。三級リンに対する原子移動を速度論的に解析した結果、末端配位子が酸素→硫黄→セレンになるにつれて反応速度が飛躍的に増加することを明らかとした。タングステン類似対も合成してその分光学的性質や原子移動能を評価した。 この他、ジチオレン連結型配位子のスペーサー部の大きさやアミド部位の置換基を変えた配位子誘導体を合成し、そのモリブデン錯体を合成した。溶液状態におけるラマンおよび赤外スペクトルを測定し、それらの伸縮振動数を求め電子状態を明らかにした。また、この錯体は、アルカリ条件下において水を触媒的に過酸化水素まで電気化学酸化することを見出した。分子の対称性をその場電解IR測定によって調べたところ、ジチオレン連結型配位子によって、モリブデン中心の幾何構造がほぼ三角柱構造に規制されていることが判明した。
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