研究領域 | 配位プログラミング ― 分子超構造体の科学と化学素子の創製 |
研究課題/領域番号 |
24108736
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山本 崇史 慶應義塾大学, 理工学部, 助教 (40532908)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 無機ナノシート / 磁気異方性 / ダイヤモンド / 臨界電流密度 |
研究実績の概要 |
1. 無機ナノシート積層体における垂直磁気異方性磁性ナノシートとして Co および Ni イオンを導入した層状複水酸化物 (Co-Ni LDH) を、その相手としてスメクタイト粘土 (SSA) を用い、layer-by-layer 法によって積層体を作製した。XRD 測定から、Co-Ni LDH と SSA との 1 : 1 のサンドイッチ構造の形成が確認された。積層体に対し、面内および面直方向に磁場を印加して磁化測定を行ったところ、面直方向において大きな保磁力が得られた 。また、SSA のかわりに PSS を用いて積層体を作製したところ、同様に垂直磁気異方性が発現した。さらに、磁性ナノシートとして、Co-Co LDH を用いた場合は、面内方向において大きな保磁力が得られた。以上より、Co-Ni LDH / SSA 積層体における垂直磁気異方性の発現には、Ni イオンが関与していることが明らかとなった。2. ホウ素ドープ型ダイヤモンドにおける表面種に敏感な超伝導特性超伝導を示すホウ素ドープ型ダイヤモンド(BDD) に関して、水素終端 (H-BDD)、酸素終端 (O-BDD)、再び水素アニールした水素終端 (Re:H-BDD) の3種類の終端状態に対して行った。その結果、磁化測定および電気測定から見積もった臨界電流密度は H- Re:H-BDD O-BDDであった。この臨界電流密度の可逆的な変化の起源を調べるため、3種類の終端状態に関して超伝導体積分率を算出したところ、H-BDDでは30%, -BDDでは6%, Re:H-BDDでは17%であった 。詳細は明らかとなっていないが、BDD の表面終端を変化させることによって、超伝導グレイン間のウィークリンクの寄与が変化しているためであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、申請者がこれまでに見出してきた、分子磁性体を集積化させた超薄膜における「バルクを超えた機能性材料創製のコンセプト」を拡張させ、光に応答して機能を発現する化学素子の構築を目的とする。具体的には、[I] 無機ナノシートを積層させた電子貯蔵型ナノ構造体 (素子パーツ)、[II] 超伝導を示すホウ素ドープ型ダイヤモンド薄膜 (素子パーツの受け皿)、の2点に関して重点的に検討を行い、これらを組み合わせた光作動型多重物性素子の構築を目指す。[I] 無機ナノシートを積層させた電子貯蔵型ナノ構造体、に関しては、垂直磁気異方性を示す構造体の作製に新たに成功したことから、これまでに申請者が創製してきたような無機ナノシート積層体に見られるような単なる磁性体に留まらず、磁気異方性という新機能を発現させるシステムを発見したといえる。Co-Ni LDH の垂直磁気異方性に対して光応答性を付与するべく、半導体性ナノシートとの組み合わせも検討している。[II] 超伝導を示すホウ素ドープ型ダイヤモンド薄膜、に関しては、ダイヤモンド表面の終端原子種のみを化学的に変換することによって劇的な臨界電流密度の制御に成功した。薄膜の厚さが 10 um であることを考慮すると、この結果は特異的であり、超伝導ダイヤモンドの特性は表面種に極めて敏感であるといえる。同様の特性制御を光化学反応を介して行うべく、光応答性分子による表面改質も検討している。以上、素子パーツとその受け皿の準備が整ってきたことが、おおむね順調に研究が進展している理由である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、光に応答して機能を発現する化学素子の構築を目的とする。具体的には、[I] 無機ナノシートを積層させた電子貯蔵型ナノ構造体 (素子パーツ)、[II] 超伝導を示すホウ素ドープ型ダイヤモンド薄膜 (素子パーツの受け皿)、の2点に関して重点的に検討を行い、これらを組み合わせた光作動型多重物性素子の構築を目指す。 [I] 無機ナノシートを積層させた電子貯蔵型ナノ構造体、に関しては、垂直磁気異方性を示す構造体の作製に新たに成功し、今後はこの垂直磁気異方性に対して光応答性を付与するべく、磁性ナノシートと半導体性ナノシートとの積層体を作製し、半導体の光化学反応によって生じる励起電子もしくは正孔を利用することによって垂直磁気異方性の光制御を達成したい。 [II] 超伝導を示すホウ素ドープ型ダイヤモンド薄膜、に関しては、ダイヤモンド表面の終端原子種のみを化学的に変換することによって劇的な臨界電流密度の制御に成功した。このような、表面種に極めて敏感な超伝導ダイヤモンドの特性を光化学反応を介して制御するべく、広い意味でのフォトクロミック分子による表面改質によって、電子状態変化を光誘起させ、超伝導ダイヤモンドの特性を光制御することを達成したい。 また、素子パーツ (無機ナノシート積層体) とその受け皿 (超伝導ダイヤモンド) の準備が整ってきたため、これら2つを組み合わせた化学素子の作製および特性評価を行っていきたい。
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