前年度の研究成果に基づき、高密度レドックスポリマー複合膜における電子移動と、それに伴うイオン輸送の全容解明により、有機光電変換に不可欠な革新的ポリマー・金属錯体複合素子を創出するとともに、金属錯体の光誘起電子・エネルギー移動を組み込んだ電荷分離・輸送系へ拡張し、光電変換能を引き出すことを目的として研究展開した。本年度の成果内容は以下の通りである。 (1) n型レドックス席への拡張:n型酸化還元電位と電極反応の速度定数を把握し、酸化チタンのフェルミレベルに近い準位で可逆的な1電子移動を示すn型レドックス席を絞り込んだ。次いでこれらをペンダント置換基として導入した高密度レドックスポリマーを分子量高く合成し、電極修飾膜でn型容量を実測した。(2) n型電荷輸送の確立:酸化チタンのフェルミレベル近傍で可逆的1電子レドックス席を高密度に含有するレドックスポリマーは、励起色素から受け渡された電子を高エネルギー準位を保ったまま輸送でき、自己電子交換により電荷分離距離が顕著に増加するため、逆電子移動による電荷再結合を抑制できることを明らかにした。光電荷分離による起電力発生を実証し、従来にない全有機湿式太陽電池の実現に向けたn型輸送材料として確立した。初年度に得られたn型ポリマー膜に色素として働く金属錯体と電荷補償系を共存させ、光起電力の発生を確かめた。(3) n型ポリマーを用いた光電変換系の確立:透明電極上に形成させたn型ポリマー膜に、金属錯体(色素)を擬不均一系での高密度担持や、それをペンダント基とする高分子錯体の積層により複合した。光照射下での開回路電圧を測定し、蓄積される電荷密度を求めた。また、減衰挙動から逆電子移動を含めた速度パラメータを見積もった。選定されたn型電荷輸送層とp型電荷補償系を共存させたセルを構成し、開放電圧、短絡電流、フィルファクター、光電変換効率を把握し、高い開放電圧を引出した。
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