本研究では,構造変調と濃度変調が同期した長周期積層(LPSO)構造を有する高強度マグネシウム合金を対象とし,主として熱的変化の観点から,LPSO構造の形成・変化が関与する相変態を明らかにすることを目的としている.今年度は,LPSO構造形成に及ぼす溶融後の冷却速度の影響について,示差走査熱量測定(DSC)やX線回折測定によって調べた.その結果,Mg97Zn1Y2鋳造合金では,冷却速度10~90℃/minの範囲においては18Rに加えて14HのLPSO構造が形成し,冷却速度が小さいほど14HのLPSO構造形成が支配的になっていることが分かった.タイプIIのMg97Zn1Gd2鋳造合金では,溶融後,1℃/min程度の速度で冷却すれば,鋳造ままで14HのLPSO構造が形成している可能性が示唆された.さらに,LPSO構造の高温安定性を種々の温度に加熱し,20分および24時間保持後急冷試料に対してX線回折測定により調べた.その結果,Mg97Zn1Y2合金において,20分間の加熱保持では500~520℃の間で積層欠陥へのZnおよびYの濃化の消失した18R構造が過渡的に存在すること,また,加熱保持時間を24時間にするとこれらの過渡的な18R構造は消滅するものの,470~500℃の間で積層欠陥へのZnおよびYの濃化の消失した18R構造が存在することが分かった.さらに,積層欠陥へのZnおよびYの濃化の消失した18R構造を徐冷すると14Hの形成に加えて470℃以下で冷却中にSFへのZnとYの濃化が進行することが分かった.以上より,DSC加熱曲線における400~500℃の温度範囲でみられる熱的変化(吸熱ピーク)は積層欠陥へのZnおよびYの偏析に関係しているのではないかと考えられた.
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