研究領域 | 地殻流体: その実態と沈み込み変動への役割 |
研究課題/領域番号 |
24109701
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岡本 敦 東北大学, 環境科学研究科, 准教授 (40422092)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 蛇紋石 / マントル / 熱水変質 / 物質移動 / 加水反応 / 水熱実験 / 反応速度 / モホ |
研究実績の概要 |
本年度は蛇紋岩化反応における物質移動の影響を明らかにするための反応装置を設計し、反応におけるシリカの影響についての実験を進めた.特に,今年度は,マントルの一般的な鉱物組み合わせであるかんらん石-斜方輝石-水系での実験を進めた.反応装置の工夫としては、メインの反応器の内部に2本の小型の反応チューブを設置して,各反応チューブの内部にかんらん石/斜方輝石/かんらん石という層で設置して、その反応進行度の空間的な変化を詳細に観察した点である.また、反応進行度は熱重量測定と走査型電子顕微鏡による画像の解析の2種類を行った. 水熱実験は250℃、飽和蒸気圧で行い,最大で1510時間(およそ3ヶ月)である.反応後の物質は,かんらん石帯と斜方輝石帯の間に白っぽい反応帯が形成することが分かったが,どちらの鉱物帯でも反応が進行していることが分かった.これは、かんらん石帯ではシリカを吸収する反応,斜方輝石帯ではシリカを放出する反応が起こってバランスしていることが明らかになった.このような反応進行度の空間分布は、いわゆる局所平衡モデルでは説明することができず,非常に空隙率の大きい岩石においては拡散と表面反応のどちらも効いていることを示している.また、シリカの高い領域においてはマグネタイトを形成せず,すなわち水素を作る反応が起こらないことを明らかにした.斜方輝石とかんらん石では反応速度の温度依存性が著しく異なるはずであり、シリカの供給源からの反応進行度の空間分布は、海洋リソスフェアの熱水変質場における流体・物質移動また温度履歴についての大きな情報を持っているということが推察される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,反応進行度をうまく読み取るための反応装置の開発、分析方法の確立が急務であったが,その点においては、非常に成功したと考えられる.とくに、メインの反応管に反応チューブを2本設置にすることによって、片方の反応チューブでの試料のSEMによる薄片観察(空間分解能が高い)を行い、もう片方のチューブを分割することによってXRDや熱重量測定を行うことを可能にした.これにより,より精度の高い反応進行度の空間分布を得ることを可能になった. また、蛇紋岩化反応は非常に長期間かかるものである.やはり1シリーズの実験が2-3か月かかるのは,研究を加速させる上では効率を妨げるものではあるが,やり方のめどがついたために,多くの系での実験を並行して行うことによって,長期間の実験の時間変化を見ることができた.本年度は、かんらん石-斜方輝石という非常に基本的な系での反応のメカニズムを詳細に押さえることができたのは、非常に予定通りと言える.また、高温条件下であるために,反応容器は金属製のものが必要である.今回は、バックグラウンドとしてのブランク実験を行った.反応容器として用いたステンレス製の容器(SUS316)は若干の水との相互作用を起こすことにより、実験の化学反応系に与える影響も評価し、反応容器の材質をインコネルに変更するなど,改良を加えていく予定である.以上のように,実験手法の確立と1つの系の反応を理解しつつあり、おおむね順調であると言える.
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今後の研究の推進方策 |
1. かんらん石-石英-水系、かんらん石-斜長石―水系の水熱実験 (250#730;C, 飽和蒸気圧):地殻とマントル物質の境界をまたぐ熱水変質の進行メカニズムを理解するために、マントル物質の代表としてかんらん石、地殻の代表物質として石英または斜長石の粉末をレイヤーとしてつめたインコネル製の2重管を用いた反応実験を行う。最大で3ヶ月の長期間の実験であるが、両方の系を同時進行で行う。実験中は、順次、試料をとりだし、溶液組成分析(ICP-MS/ICP-AES)を行い,固体試料については熱重量測定と薄片の走査型電子顕微鏡による画像解析によって、物質の相境界からの距離によって反応物とその量がどのように変化するかを定量的に評価する。実験準備(4月),水熱実験および分析(5-8月) 2. かんらん石-ハンレイ岩(斜方輝石+斜長石)の系の水熱実験 :より天然の系に近いかんらん石-はんれい岩の系で実験を行い、Moh近傍での熱水変質物質の産状と比較して、そのメカニズムを考察する。(9-11月) 3. 物質移動を考慮した反応―拡散モデルの構築:地殻とマントルの境界で重要な元素であるシリカを考慮したモデルをまず構築し,地殻からマントル側へ流体とともにシリカが拡散する際の反応がどのように進行するかのモデルを構築し,石英―かんらん石系の実験と比較しながら、必要な速度論的パラメータを決定する。その上で,より複雑なCaやAlが入る系においておこる反応を明らかかにする。また、水の流入と元素の移動がカップリングしているときと、元素移動が遅れる場合の違いを明らかにし,地殻/マントル境界における反応メカニズムを明らかにする。
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