本研究では、プレート運動が自発的に内部で実現されるマントル対流モデルを用いて地球深部への水輸送と下部マントルでの水循環について研究し、下部マントルに見られる大規模不均質構造が水輸送と関連があるか否かについて明らかにするのが目標であった。 これらの課題について、以下のような成果が得られた。(1) マントル遷移層への水輸送を決める重要な要素は蛇紋岩の強度である。沈み込み帯の低角逆断層と同程度、あるいは弱い強度の時、火山フロントと整合的な水輸送様式となる。(2) 上部マントルと下部マントルの境界おける水輸送メカニズムについて明らかにした。下部マントへの固体の引きずり込みと脱水の繰り返しが下部マントルへの水輸送量を決めるのに重要であることを示した。(3) 下部マントルの水含有能力と水輸送量の関係を見積もった。その結果、上部マントルと下部マントルの水含有能力の比率の5倍程度多い水が下部マントルへ輸送されることが分かった。(4) 下部マントルの水含有能力が小さいとき、水に飽和した層が660km相境界に形成されルことが分かった。(5) 660km相境界上の水に飽和した層はプルームとして上昇し、背弧側の火成活動やリソスフェアのダイナミクスに大きな影響を与えることが分かった。(6) 下部マントルの水含有能力が小さいとき、水はマントル対流により受動的に混合されるが、海洋プレート側の方が水平方向の流れが速いため、横方向に広く分布することが予測された。大陸側では、下部マントルがよどみやすく、一カ所にまとまって分布するようになるため、水を含有した部分が地表まで戻る時間が短いことが分かった。
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