公募研究
ヘパラン硫酸プロテオグリカンは、神経細胞の分化、移動、軸索ガイダンス、シナプス形成、神経可塑性の制御において重要な役割を持つ。これら多様な活性は、コア蛋白質に共有結合したヘパラン硫酸糖鎖がシグナル分子、酵素、受容体、細胞外マトリックス分子などと相互作用することによって発揮される。私たちは、ヘパラン硫酸糖鎖の6位の硫酸基を選択的に加水分解するエンドスルファターゼSulf1、Sulf2遺伝子を単離し、それらが細胞外でヘパラン硫酸の6位の硫酸基を特異的に加水分解することにより、硫酸化パターンを変化させることを明らかにした。これまでに、Sulf1ノックアウトマウス、Sulf2ノックアウトマウスのヘパラン硫酸で、2位、6位、N位の三カ所が硫酸化された二糖単位が増加していること、ダブルノックアウトマウスが軸索投射異常を有することなどを明らかにしている。しかしながら、Sulf1/Sulf2によるヘパラン硫酸修飾が成獣脳においてどのような役割を担っているかは不明である。そこで、本研究では、Sulf1/Sulf2の脳における役割を、主にノックアウトマウスを用いて、分子、細胞、回路、行動レベルで解析する。特にSulf1、Sulf2の発現が多い嗅覚神経回路、海馬、大脳皮質に注目して、シナプスの構造と機能の変化、それに起因する回路、行動の異常を調べ、ヘパラン硫酸の脳機能発現における役割、特に硫酸化ドメインの機能的役割を明らかにすることを目的とする。これまでに、Sulf1が嗅覚神経回路(嗅球、前嗅核、嗅結節、梨状皮質)に強く発現すること、Sulf1ノックアウトマウスが嗅覚記憶に異常を有することを見出した。さらに、嗅覚学習で用いた刺激により活性化される脳部位をc-fosを使ってマッピングした。
2: おおむね順調に進展している
Sulf1ノックアウトマウスで嗅覚記憶異常が観察されることを見出していたが、これが嗅覚神経回路におけるSulf1発現と関連する可能性が高いことを明らかにすることができた。また、嗅覚学習で用いた刺激により活性化される脳部位をc-fosを使ってマッピングし、これらの多くが、Sulf1発現部位と一致するという新知見を得ることができた。
野性型マウスとSulf1ノックアウトマウスにおいて、嗅覚記憶実験と同じ刺激を与えた時に脳活動に差があるかどうかを、同じく、c-fosマッピングで調べる。また、刺激によりc-fosが発現する細胞とSulf1発現細胞が一致するかどうかを二重免疫染色により調べる。一方、嗅球内へのGABA受容体アンタゴニスト投与により嗅覚学習が成立しなくなるこという知見があることから、Sulf1ノックアウトマウスにおける、嗅球内抑制性ニューロンの数、分布、形態、細胞移動なども主に形態学的手法を用いて調べる。また、Sulf1が嗅球抑制性ニューロンを産生する側脳室の脳室下層付近に発現しており、神経新生と関連している可能性もあることから、神経新生、細胞移動、分化などとの関連も調べる。また、成獣を用いた臭い弁別学習に差があるかどうかも検討する。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Scientific reports
巻: 3 ページ: 1402
doi: 10.1038/srep01402
Journal of Biological Chemistry
巻: 287 ページ: 9579-9590
doi: 10.1074/jbc.M111.290262
http://www.md.tsukuba.ac.jp/duo/molneurobiol/