公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
我々は、ヒト髄液中に2種類のトランスフェリン(TF)・アイソフォームが存在することを見出した。アイソフォームの1つは、ユニークな糖鎖(脳型糖鎖)を持つトランスフェリン(TF-1)であり、髄液産生組織である脈絡叢に由来する。他の1つは血清型の糖鎖を持つトランスフェリン (TF-2)であり、血液に由来する。すなわち両者は由来が異なる糖鎖アイソフォームである。興味深いことに、歩行障害を伴う認知症(特発性正常圧水頭症)では、脳型TF-1のみが減少し、血清型TF-2は変化していなかった(Neurobiol Aging, 33:1807-15, 2012)。すなわち、両アイソフォームの代謝は独立していた。脳型TF-1のin vivoでの代謝を調べる目的で、ラット髄液中への投与実験を行った。TF-1はTF-2に比べ、迅速に小脳プルキンエ細胞に取り込まれた(未発表)。すなわち、プルキンエ細胞はTF-1を糖鎖依存的に効率よく取り込んだ。TF-1の速やかな取り込みに必要な糖鎖機能ドメインをマッピングするため、以下の4種類の糖鎖アイソフォ-ムを作製した。①血清型(末端シアル酸)糖鎖をもつTF-2、②アシアロTF-2(TF-2から酵素的に末端シアル酸を除いたアイソフォーム)、③アシアロ・アガラクトTF-2(アシアロTF-2から更に末端ガラクトースを除去したもの)、④TF-1(末端糖は③と同じであるが、バイセクトGlcNAcおよびコアFucoseを持つもの)である。作製されたアイソフォームのTFレセプターへの結合活性を調べたが、活性の差は認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
タンパク質の多くは糖鎖修飾を受ける。糖鎖修飾は細胞・臓器特異性を示すことから、タンパク質部分が共通で糖鎖部分のみが異なるアイソフォームが存在する(糖鎖アイソフォーム)。糖鎖は結合するタンパク質の立体構造や代謝動態に影響するため、個々の糖鎖アイソフォームに関して機能アッセイを行い、機能に影響する糖鎖ドメインを決定することが重要である。我々は髄液中にトランスフェリンアイソフォームを見出した。また、髄液に特徴的なアイソフォームが認知症のマーカーになることを示した。このメカニズムの一つとして、トランスフェリンのレセプターへの結合および小脳への取り込みを想定した。本年度、我々は一連のトランスフェリン糖鎖アイソフォームの調製に成功した。①血清型(末端シアル酸)糖鎖をもつTF-2、②アシアロTF-2(TF-2から酵素的に末端シアル酸を除いたアイソフォーム)、③アシアロ・アガラクトTF-2(アシアロTF-2から更に末端ガラクトースを除去したもの)、④TF-1(末端糖は③と同じであるが、バイセクトGlcNAcおよびコアFucoseを持つもの)、の4種類である。このアイソフォームを用いて、細胞に高発現されたレセプターへの結合実験を行ったが、レセプターへの結合活性に差は認められなかった。今後、小脳への取り込みの違いを検証するため、ラット髄液中への投与実験を行う予定である。
本年度中に4種類の糖鎖アイソフォームの調製に成功した。このアイソフォーム間で機能的な差が検出できれば、糖鎖機能ドメインのマッピングを進めることが可能である。トランスフェリンアイソフォームの機能として、細胞に高発現されたレセプターへの結合を調べたが、差を検出できなかった。今後は、以下の機能アッセイを系統的に行う予定である。(1)トランスフェリンは鉄輸送タンパク質であることから、各糖鎖アイソフォーム間での鉄結合性(親和性)を検討する。(2)糖鎖アイソフォームをラット髄液中に投与し、その小脳における取り込みを検討している。髄液に特徴的なTF-1はTF-2に比べて取り込み速度が速い傾向があることから、定量的なアッセイを確立して検証する予定である。(3)取り込み速度の精密な測定のためには、小脳スライスを用いた取り込み実験が適している。蛍光標識したTF-1およびTF-2の小脳スライスによる取り込みをリアルタイムでモニターし、可視化・定量化を行う予定である。
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Neurobiology of Aging
巻: 33(8) ページ: 1807-1815