研究実績の概要 |
糖タンパク質に付加された糖鎖は様々な生物活性を持つと考えられているが、特定の糖鎖構造との関係を直接的に示した研究は少ない。申請者らはN-結合型糖鎖の根元にα1,6 フコース構造(コアフコースと言う)を造る糖鎖遺伝子Fut8の欠損マウスの機能解析を行い、肺気腫発症の分子機構を明らかにした(Wang, X., et al., PNAS.102:15791, 2005; Wang, X., et al., JB.145:643, 2009)。一方、最近、統合失調症の症状に類似した脳神経機能障害を新たに発見した(Fukuda, T., et al., JBC. 286: 18434, 2011)。本研究は、脳神経疾患に関連する細胞膜上の糖タンパク質に着目し、糖鎖の機能最小単位とされるコアフコースによるそれらの機能変化を解析し、統合失調症などの病態とコアフコースとの関連性を明らかにすると共に、コアフコースの脳神経組織での役割を解明することを目指す。我々は、神経細胞分化株を用いた実験では、Fut8の発現が神経突起伸長と関わることを見出している(Gu, W., et al., revise中)。さらに、認知障害とα1,6 フコース欠損の関係を明らかにするため、記憶に深く関与する海馬機能を電気生理学的に検証したところ、欠損マウスの海馬CA1領域での長期増強の形成が野生型マウスより減弱していることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神経細胞分化株を用いた実験では、Fut8の発現がactivinを介したシグナルであるSmad2のリン酸化を抑制し、神経突起伸長と調節することを見出している。実際、Fut8ーKOマウスの海馬初代神経培養細胞を使って同様の結果が検証された(Gu, W., et al., revise中)。面白いことに、海馬神経の電気生理や生化学的な解析の結果からも、Fut8の発現は脳神経の機能に大事であり、NMDAやAMPAR受容体の機能制御に深く関わることを強く示唆している。また、Fut8コンディショナルノックアウトマウスの作成をも成功し最終確認中である。
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