神経組織の主要な構成成分であるガングリオシドのシアル酸や神経細胞接着因子NCAMのポリシアル酸は神経機能に深く関与している。このシアル酸の役割の解明を目的として、動物シアリダーゼに着目して研究を進めてきた。4種のシアリダーゼのうち、主に、ガングリオシドを基質とするNEU3およびNEU4については、マウス脳の発達に伴い、両酵素の発現変動は相反するパターンを示し、神経突起形成についても、NEU3は形成を促進するが、NEU4は抑制傾向を示すことが確認された。この制御機構について内因性基質の観点から検討したところ、NEU4による神経突起抑制機構のひとつがNCAMポリシアル酸の分解を介していることがわかった。NEU3の内因性の基質はガングリオシドであるが、神経突起形成の促進に繋がる分子について詳細に解析中である。これらのin vivoでの解析を目的に、既に作成済のNeu3KOおよびNeu4KO、それらのdouble KOマウスを作成し、現在、種々の行動実験、脳組織におけるガングリオシド等の変化を調べている。また、HexosaminidaseA KOとのdouble KOも作成したので、GM1を含むガングリオシドの蓄積や行動変化を観察している。 さらに、脳腫瘍の約3割を占め、最も悪性度の高い予後不良のグリオブラストーマについて、その特徴である浸潤性進展とNEU3との関連性を検討した。ヒトグリオブラストーマ細胞を用いて、NEU3を高発現させると、浸潤能が3種の細胞で有意に低下し、コラーゲンIVやフィブロネクチンに対する接着が亢進した。ここでは、NEU3がFAKやパキシリンのリン酸化を亢進し、ベータ1インテグリンの発現量が亢進していた。しかし、運動や浸潤能に繋がるその後の接着斑の分解機構が抑制されていることがわかった。
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