研究概要 |
私達は、神経発生・発達過程のラジアルグリア細胞膜表面の脂質ラフトに、新しい機能性糖脂質、ホスファチジルグルコシド(PtdGlc)が存在することを見出している。このグリセロ型糖脂質の代謝産物の一つであるリゾ体PtdGlcは、強力な軸索反発因子活性を有している(理研BSI上口研究室との連携研究、未発表)。また、本糖脂質は神経細胞損傷修復時のアストログリアで発現が上昇する事から、神経修復に阻害的に作用していることが予想される。神経細胞膜上には、このリゾ体糖脂質に特異的で、Ca2+,Gα12/13に依存的なGPCR型受容体が存在していることを見いだし、そのタンパク質をコードしている遺伝子を同定することに成功した。この遺伝子の配列情報から、リゾ体脂質・受容体システムは、進化的に保存されていること、更に、軸索移動の制御のみならず、炎症、ガンなど、様々な生物学的な反応に関わっていることが示唆された。本受容体のノックアウトマウスを得ているので、個体レベルでの受容体の機能解明を進めること可能となった。また、PtdGlcの生合成に関与する酵素は、主に小胞体に存在し、飽和脂肪酸を持つホスファチジン酸に特異的なβ-グルコース転移酵素であることを見つけた。この糖転移酵素の生化学的な特性(細胞内局在,至適反応条件、基質特異性など)を明らかにした。グルコース転移酵素遺伝子も進化的に古くから保存されており、本糖脂質の生物学的な重要性を示唆していた。今後ノックアウトマウスを使うことにより、生体内での新規糖脂質合成の役割の理解が進むと期待された。
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