研究概要 |
本研究では、プラズマと相互作用するナノ界面として、1ナノメートル程度の大きさを持つ有機半導体分子に着目し、有機半導体分子を原料としてプラズマを作用させナノ構造を持つ新炭素材料の合成を目指した。プラズマプロセス(化学気相堆積法:CVD)でダイヤモンドライクカーボン(DLC)を合成する過程で有機半導体分子を気相から混合する実験を行った。銅フタロシアニン(CuPc, C32H16N8Cu)をDLC製膜中に取り込ませたところ、光吸収スペクトルとラマンスペクトルから、CuPcのπ電子共役系が壊れていないこと、分子が孤立してDLC膜に取り込まれていることがわかった。 同様の実験でC60をDLC製膜中に共蒸着により取り込ませたところ、特異な光学的性質を示す薄膜が得られた。可視域で鮮やかな発色を示し、蒸着時間を変化させることにより色を変化させることができる。この発色は試料を大気中に取り出してから膜にH2Oが作用して起こることがわかった。分光エリプソメトリから、この試料は広い波長領域に対して最高3.6という高い屈折率を示す薄膜であることが明らかになった(例:ダイヤモンドはn = 2.42程度)。これが鮮やかな干渉色を示す原因であると考えられる。さらに、電子顕微鏡観察から、この物質は10-100nmの径を持つ中空の「泡」のような構造の集合体であることがわかった。泡状構造を持つ膜が生じた原因については、C60とDLCの原子の存在密度の違いからくる膜の大きなストレスが考えられる。C60は分子が中空の籠状構造を持つため、炭素材料としては例外的に密度が低い。このため、メタンプラズマとの相互作用により、C-H結合やC-C結合が生じ、さらに大気中の水分と化学反応することによってC60の籠状構造が壊れることに伴い密度が減少して隙間ができることにより泡状構造が生成すると考えることができる。
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