本研究は、プラズマ照射下という極めて強い非平衡状態における物質表面・界面近傍のナノスケールの自発的構造形成機構を、その構造形成とナノ界面の近傍の「揺らぎ」との関係から、原子レベルシミュレーションを用いて明らかにすることを目的とする。我々は、平成22・23年度の本領域公募研究の支援を受け、半導体製造糧におけるゲートエッチングプロセスで発生するシリコン・リセスと呼ばれる、ゲート酸化膜を通しての基板シリコンの酸化が、プラズマから入射される水素イオンによる増速酸化に起因するものであることを実験的に立証した。本研究では、これらの研究成果を発展させ、分子動力学(MD) シミュレーションを用いて、増速酸化の特徴を詳細に解明した。シミュレーションでは、軽い水素イオンが、一定の入射エネルギーでシリコン基板に入射する際、基板表面近傍に存在する酸素原子が、入射水素原子との衝突により移動する位置を時間(水素イオン注入量)の関数と求め、その運動が、非熱的拡散に対応することを明らかにし、また、Einstein の関係式により、実効的な拡散係数を水素イオン入射エネルギーの関数として求めた。更に、過去に我々が行ったダイヤモンドライクカーボン(DLC)のsp3 構造形成の研究を発展させ、Ir など、炭素とは異なる基板上に結晶ダイヤモンドを成長(ヘテロエピタキシャル成長)させる手法として知られる「基板バイアス核発生法(Bias Enhanced Nucleation 法: BEN 法)」の表面反応の解析も併せて行った。BEN法で用いられる実験条件下で、我々のイオンビーム入射装置(マルチビーム装置)を用いて、Ir基板表面に炭素(C)イオンビームを入射し、かつ、表面解析を行った。この実験により、Ir基板内部から表面にC元素が析出する過程が明らかとなり、Ir基板への高エネルギーCイオン照射におけるダイヤモンド核形成機構を推定する重要な手掛かりが得られた。
|