研究領域 | 脳内環境:恒常性維持機構とその破綻 |
研究課題/領域番号 |
24111503
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
宮井 和政 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (60283933)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ニューロトリプシン / アグリン / 樹状突起フィロポディア / シナプス / 強心配糖体 / 学習行動 / 記憶 / 高次脳機能リハビリテーション |
研究実績の概要 |
ニューロトリプシン-アグリン系による樹状突起フィロポディア新生がシナプスターンオーバーを介してどのように学習・記憶に関与するのかを検討するため、空間学習を検査するモーリス水迷路試験装置と恐怖条件付け装置を導入し、どの学習実験系により再学習行動が評価可能なのか、野生型マウスを用いて適切な条件設定を行った。その結果、モーリス水迷路試験では、一度記憶したプラットホームの位置を180度転換させるReversal Learningの系を、また恐怖条件付け試験においては、海馬と扁桃体の働きを必要とする文脈依存性恐怖記憶の消去実験(Extinction Learning)の系を立ち上げた。次に、これらの実験系を用いてニューロトリプシン遺伝子欠損マウスの再学習行動を野生型マウスと比較した。モーリス水迷路試験によるReversal Learningにおいては、ニューロトリプシン遺伝子欠損マウスは最終的にはプラットホームの位置を学習できるものの、位置変換前の空間学習の遅延と変換直後の再学習の障害の可能性が認められた。また、文脈依存性恐怖記憶の消去実験では、ニューロトリプシン遺伝子欠損マウスは恐怖記憶の成立には問題は認められなかったが、特に恐怖記憶の消去学習の後期相に若干の障害が見受けられた。これらの実験結果は、ニューロトリプシン-アグリン系による樹状突起フィロポディア新生が当初の予想通りにシナプス可塑性の維持に寄与するのみならず、長期記憶の形成過程にも関与している可能性を示唆するものである。 上記行動実験系に加え、中枢神経系アグリン受容体の修飾薬である強心配糖体の樹状突起フィロポディア新生への効果を検討するため、Thy1-eGFPトランスジェニックマウスを導入するとともに、2光子レーザー顕微鏡による観察系を立ち上げた。現在予備実験を行っている最中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題を遂行するにあたり必須の遺伝子改変マウス2種(ニューロトリプシン遺伝子欠損マウス、Thy1-eGFPトランスジェニックマウス)については海外からその系統の導入を終え、現在安定して動物を供給できる体制を整えた。また、学習行動実験に必要な設備一式も本補助金によって揃え、予備実験によって本研究課題に必要な学習試験の条件設定も完了した。さらに、ニューロトリプシン遺伝子欠損マウスにおける再学習行動の基礎的解析も終了した。 樹状突起フィロポディアの解析についても、2光子レーザー顕微鏡を柱とし、人口脳脊髄液灌流系を備えた海馬急性スライス観察システムを立ち上げ、現在どれくらいまでのリアルタイム観察が可能なのかを検討しているところである。以上、最低限の目標であった実験系の樹立は達成できたうえに、ほぼ予想通りの基礎的実験データを得られたことから、本研究課題は現在まではおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ニューロトリプシン-アグリン系による樹状突起フィロポディア新生の学習・記憶における役割をより詳細に検討すべく、条件設定を変えた再学習行動評価試験および空間記憶・恐怖記憶がどれだけ長期に維持されるかの試験をニューロトリプシン遺伝子欠損マウスを用いて行う。 さらに、Thy1-eGFPトランスジェニックマウスと2光子レーザー顕微鏡による海馬ニューロン樹状突起フィロポディア観察システムを駆使して、強心配糖体にアグリンC末端切断断片と同様のフィロポディア生成作用があるかどうかを検討する。強心配糖体は、アグリン受容体であるNa/K-ATPaseを活性化する濃度(低濃度)と阻害する濃度(高濃度)で検討し、アグリンC末端断片の作用がNa/K-ATPaseを賦活することなのか、抑制することなのかを解析する。また、ニューロトリプシン遺伝子欠損マウスで障害が認められた学習行動も強心配糖体投与で改善できるかどうかを明らかにする。 また、総頸動脈結紮により空間学習障害を引き起こす脳梗塞モデルマウスを作製し、その空間学習能をモーリス水迷路試験で評価するとともに、強心配糖体の脳室内投与や腹腔内投与が空間学習障害からの回復を促進するか否かを検討し、ニューロトリプシン-アグリン系の高次脳機能リハビリテーション促進薬としての可能性を探る。
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