研究領域 | 脳内環境:恒常性維持機構とその破綻 |
研究課題/領域番号 |
24111506
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
下川 哲昭 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90235680)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | CIN85 / 哺育行動 / ドパミン / プロラクチン / 胎児期脳内環境 / 国際情報交換 / ドイツ / ノルウェー |
研究実績の概要 |
1. CIN85欠損マウスにおける母性行動欠如の解析 1プロラクチン(PRL)の合成・分泌能力の解析:PRLは母性行動の発現に必須のホルモンで、PRLの合成分泌阻害の作用を持つドパミンは、CIN85 欠損マウスの脳内で過剰に発現している。そこで、CIN85 KOマウスと野生型マウスの様々な生殖ステージでの脳内ドパミン含量、特にドーパミンとPRLの情報が交叉する視床下部のドーパミン含量を測定した。その結果、ドーパミン含量は有意に高く、血中PRL濃度は分娩日で顕著に低かった。さらにCIN85欠損マウスに妊娠中期からPRLを投与し、生まれた仔の仔育て行動を解析した。PRLの投与によって仔育て放棄が有意に減少した。 2. CIN85欠損マウスにおける乳腺の成熟とミルク産生能の解析: CIN85欠損母マウスから生まれた新生仔マウスの胃からはミルクは検出されなかった。CIN85欠損マウスの乳腺における乳管と腺房の成熟をホールマウント染色法で比較したが、有意な差はなかった。また、乳汁タンパク質であるカゼインの合成においても、野生型とCIN85欠損マウスでは差はなかった。 2. ヒトX染色体関連精神遅滞の発症とCIN85遺伝子の異常 ヒトX染色体精神遅滞の家系のゲノムDNAのCIN85遺伝子における塩基配列を解析した。その結果、男性患者の13番目のエクソンに31塩基の欠損を発見した。この領域の後半13塩基は、CIN85のアミノ酸をコードする部位である。この欠損によってCIN85の構造上Proline-rich領域と呼ばれているドメインで、アミノ酸のフレームシフトによってProline残基がすべて消えてしまっている。この領域の機能の消失が正常な脳機能における細胞内情報伝達機構を撹乱しヒトX染色体精神遅滞を発症させると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の初年度において、当初掲げた胎児期の脳内プロラクチン環境が次世代の母性行動に極めて重要であることが実験的に判明した。CIN85の機能欠損は脳内ドパミンの過剰を招き、プロラクチンを減少させることで脳内の内分泌的環境を破綻させ、次世代の仔育てを放棄させていることが強く示唆された。また、乳腺および乳汁の異常により仔育てが放棄されたのではないこともわかった。さらに、ヒトX染色体関連精神遅滞患者におけるCIN85遺伝子異常の同定には成功した。この結果はX染色体関連精神遅滞の発症にCIN85が深く関わっていることを強く示唆する。X染色体関連精神遅滞の発症メカニズムを理解するうえで極めて重要な知見である。しかし、解析した全ての患者DNAから異常が同定された訳ではない。今後、解析する患者のDNA数を増やし統計的な解析が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
1. CIN85欠損マウスの解析:胎児期の脳内内分泌環境が次世代の母性行動に重要である事を生殖工学を用いた実験を通じて明らかにする。そのために、野生型のマウス受精卵を雌のCIN85欠損マウスの子宮に移植し得られた仔の母性行動を解析する。反対に、CIN85欠損マウス由来の受精卵を野生型マウスの子宮に移植して得られた仔の母性行動を比較検討する。
2. CIN85と精神疾患との関連性の解析:ヒトX染色体関連精神遅滞の発症においてCIN85のプロリンーリッチドメインの変異を認めることができたので、免疫沈降法などで結合タンパク質を解析しX染色体関連精神遅滞の発症機序を予測する。また、以前我々は、CIN85遺伝子はヒトX染色体(Xp22.1-p21.3)に存在し、X連鎖精神遅滞の原因遺伝子オリゴフレ ニン1や脆弱 X精神遅滞発症に関与しているPSD-95と神経細胞樹状突起棘で共存していることを突きとめた。このことはCIN85がX染色体にリンクした精神疾患の発症メカニズムに深く関与していることを示唆している。これらの病因としてスパインの形成と形態異常が 指摘されている。CIN85欠損によりスパインの形成に異常が発生するかを詳細に観察する。
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