研究領域 | 脳内環境:恒常性維持機構とその破綻 |
研究課題/領域番号 |
24111511
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
富田 泰輔 東京大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (30292957)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | アルツハイマー / スフィンゴシン1リン酸 / 受容体 / アミロイドβ |
研究実績の概要 |
高齢化社会を迎え、アルツハイマー病(AD)は大きな社会問題となっている。これまでに申請者は、AD発症に関わるAβの産生機構、特にセクレターゼについて研究を進めてきた。その過程で、Aβが神経活動依存性に産生されること、さらに炎症性メディエーターであるS1P、TNFβなどのシグナル刺激によりAβ産生が変化することを見出していた。しかしその分子機構の多くについては明らかではない。そこで初代培養神経細胞およびグリア細胞を用い、S1P関連脂質、S1P受容体アゴニスト・アンタゴニストなどがAβ産生に及ぼす影響について検討を行い、FTY720やKRP203などのS1P受容体アゴニストがAβ産生を抑制することが明らかとなった。その作用点としては、γセクレターゼ活性に対することが示唆されたが、in vitro アッセイでは影響が見られなかったことから、何らかの受容体を介したシグナル伝達によってγセクレターゼ活性が影響を受けていることが明らかとなった。しかし、S1Pとは大きく異る構造を持つ1型S1P受容体アゴニストSEW2871や、1型S1P受容体アンタゴニストW123ではAβ産生に対する影響は観察されなかった。さらに通常S1P受容体はGiを介してシグナル伝達を行うが、Gi阻害剤であるSuraminも神経細胞からのAβ産生に影響を与えなかった。以上から、FTY720およびKRP203がAβ産生を抑制する薬効については、その受容体、下流のシグナル伝達機構、ともに新規のものであることが推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画のうち、FTY720およびKRP203によるAβ産生抑制作用について、既知のS1P受容体とGiシグナル経路を介さない、新規受容体が関与していることを解明し、現在4つの受容体がその候補として残されている。また下流についてもアレスチン経路の可能性があることが初期的検討から明らかとなっていることから、γセクレターゼの輸送について検討を行なっている。一方、グリア細胞由来Aβ分解酵素についてもキモトリプシン型セリンプロテアーゼであることが明らかとなり、siRNAによる候補分子の解析とケミカルバイオロジーによる分子実態の同定を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
FTY720およびKRP203のシグナル経路については、受容体が明らかとなった段階で次に内因性リガンドの同定を目指す。現在得られている候補GPCRはいずれもオーファン受容体であることから、リピドミクスを含めたオミクス的アプローチを行うことを考え、既に初期検討に着手している。またAβ分解酵素についてもその分子実態として絞り込みが進みつつあることから、ノックダウンが可能となるようにウイルスベクターの作成を開始し、最終的にはin vivoでの検証を目指す予定である。
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