研究領域 | 脳内環境:恒常性維持機構とその破綻 |
研究課題/領域番号 |
24111512
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
林 崇 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80547472)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 一分子観察 / グルタミン酸受容体 / シナプス |
研究実績の概要 |
近年の一分子イメージング技法の飛躍的発展と、分子脳科学において確立された各種手法との組み合わせにより、シナプスの形成および維持・調節機構に関する知見が蓄積しつつある。本研究は、脳内環境の恒常性維持に関し、興奮性シナプスの制御・調節機構という視点からの解明を目指す。特に、興奮性シナプスの機能に重要な役割を果たすAMPA受容体の局在と輸送の変化を指標とし、シナプス周辺環境の変化に伴う興奮性シナプス制御機構の解析を行なった。全反射顕微鏡による一分子観察と分子生物学的手法とを組み合わせ、実験には主に大脳皮質培養神経細胞を用いた。この神経細胞に、pH感受性GFPであるpHluorinの標識タグ付きAMPA受容体を導入し、受容体各サブユニットのシナプス表面組み込みを直接的にイメージングして、各種因子の興奮性シナプスへの影響を解析した。 平成24年度は、知的障害と自閉症の原因遺伝子の一つであり、興奮性シナプス後膜に局在する膜貫通型蛋白質であるIL1RAPL1が、興奮性シナプス制御機構に如何なる影響を及ぼすかを中心に解析を進めた。多くの精神疾患は、シナプスの変調状態を導く様な、スパイン構造の縮退あるいは変性を伴うことが知られている。先ず、IL1RAPL1下流で機能する分子群を同定した。それらの内、RhoGEFであるMcf2lが、更に下流のRhoA-ROCK系を介し、IL1RAPL1からスパイン形成に至る情報伝達系に関わる事を明らかにした。そして、IL1RAPL1とその下流シグナル伝達系が 、興奮性シナプスの形成・調節に与える影響について、生きた神経細胞での継時的イメージング解析を行なった。その結果、IL1RAPL1がMcf2l-RhoA-ROCKシグナル系を介して、興奮性シナプスの形成とそれに続く成熟・安定化を促進し、AMPA受容体のシナプス組み込みを制御している事を明らかにした(投稿中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、脳内環境の恒常性維持機構とその破綻による脳機能変調の解明を、興奮性シナプスの形成と維持・調節の視点から進めることを目的とする。平成24年度は、当初計画通り、精神疾患原因遺伝子IL1RAPL1のよる興奮性シナプス制御の解析を行なった。現在までに、大脳皮質培養神経細胞の興奮性シナプスにおいて、IL1RAPL1下流で機能する分子群を同定した。更に、この細胞内情報伝達系により、IL1RAPL1がスパイン構造と興奮性シナプス機能の制御に関与していることを明らかにした(投稿中)。また同時に、一分子イメージングに用いる全反射顕微鏡の機能拡張を行なった。これまでに、赤緑二色での同時観察系と多点観察用電動ステージを既に整えた。このイメージング系により、今後、IL1RAPL1分子の解析以外にも、神経細胞に発現しシナプス機能の維持・調節に関係する他の分子や脳内環境の恒常性維持に関連する因子の影響を、効率良く解析することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、先ず、これまでに明らかにした、精神疾患原因遺伝子IL1RAPL1とその下流細胞内情報伝達系の解析を更に展開する。特に、このシグナル系が興奮性シナプスの制御に関わる機構を更に深く解析し、研究成果をまとめ公表する。本研究で用いるイメージング技法の特徴は、様々な因子がグルタミン酸受容体の分子挙動に如何なる影響を与えるかを直接的に可視化解析し、哺乳類脳内の興奮性シナプス制御機構を解明できることである。今後、上記のIL1RAPL1の解析を進めると同時に、このイメージング技法を他の系にも応用する。具体的には、シナプス周辺環境中や神経細胞内に発現し、恒常的環境維持に関わる因子の変化および他の精神疾患原因遺伝子・関連遺伝子にも解析の対象を拡げる。これらの研究を進める過程で、可能な限り領域研究者との共同研究を行なう。加えて、この興奮性シナプス制御機構のイメージング解析により、シナプス破綻の観点からも解析を進め、正常な脳機能およびその変調状態におけるスパイン構造とシナプスの制御機構の解明を目指す。
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