研究概要 |
本研究は、脳内環境の恒常性維持に関し、興奮性シナプスの制御という視点からの解明を目指した。特に、興奮性シナプスの機能に重要な役割を果たすAMPA受容体の局在と輸送の変化を指標とし、周辺環境の変化による興奮性シナプス制御の解析を行なった。実験には、主に大脳皮質培養神経細胞を用い、全反射顕微鏡を使った一分子観察系により、AMPA受容体のシナプス表面組み込みをイメージングして、各種因子の影響を解析した。 平成25年度は、前年度に引き続き、興奮性シナプス後膜に局在する知的障害・自閉症原因遺伝子IL1RAPL1が、興奮性シナプス制御に及ぼす影響の解析を続けた。その結果、IL1RAPL1が下流のMcf2l-RhoA-ROCKシグナル系を介して、興奮性シナプスの形成とそれに続く成熟・安定化を促進し、AMPA受容体のシナプス組み込みを制御している事を明らかにした(PLoS One 8, e66254 (2013))。また、統合失調症関連遺伝子であるパルミトイル化酵素DHHC8は、特に神経系で高発現を示し、DHHC8がAMPA受容体結合タンパク質PICK1に会合して、PICK1のパルミトイル化を亢進することを見出した。更に、小脳の平行線維-プルキンエ細胞間のシナプスにおいて、DHHC8によるPICK1のパルミトイル化がAMPA受容体の細胞内取り込みを促進し、シナプスに発現するAMPA受容体を減少させ、長期抑圧を誘導していることを明らかした(J. Neuroscience 33, 15401-15407 (2013))。これは、パルミトイル化依存的なシナプス可塑性の最初の報告であると共に、長期抑圧に重要なパルミトイル化タンパク質を同定した初めての研究である。本研究の結果から、脳内の興奮性シナプスにおけるグルタミン酸受容体の局在と輸送制御の変調を起こす因子が、精神疾患を誘発する可能性が示唆された。
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