研究領域 | 脳内環境:恒常性維持機構とその破綻 |
研究課題/領域番号 |
24111525
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
碓井 理夫 京都大学, 生命科学研究科, 助教 (10324708)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | てんかん / 樹状突起 / 突起間忌避 / 生得行動 |
研究実績の概要 |
てんかん症状は、大脳皮質ニューロンが過剰に発火することで生じる反復性の発作現象である。先行研究から、(1)脳の発達過程において軸索や樹状突起が異常に伸長した結果、異所的な神経回路が形成されてしまうこと、あるいは(2)ニューロンの細胞内カルシウム濃度が変調し、その信号伝達経路が入力刺激に過敏に反応して高頻度発火することが原因であると推定されている。しかし、未だにその原因は十分に解明されたとは言えない。 われわれの研究グループは、ショウジョウバエをモデル系にして、樹状突起の正常な伸長に必要なシグナル伝達系を明らかにしてきた。7回膜貫通型Flamingo(Fmi)と、その細胞内結合タンパク質Espinas(Esn)は協働的に機能して樹状突起同士の交差を防いでおり、その結果、樹状突起は空間に均一に広がっていくことが可能になる。ごく最近になって、ヒトおよびマウスのEsnホモログが、てんかんの責任遺伝子の一つであることが報告された。一方で我々は、esn変異体で、生得的な行動パターンが異常になることを予備的ながら発見していた。 Esnの結合因子として同定したカルシウム結合タンパク質Cbp53Eについて、その変異系統を作出することに成功した。表現型の解析として、まず、細胞内カルシウムの動態を詳しく解析した。終齢幼虫での解析から、Cbp53E変異体においては、赤外線による樹状突起局所の高温刺激による一過性のカルシウム上昇の時間発展様式に異常が確認された。発生過程における樹状突起の衝突時に一過性のカルシウム上昇が惹起されているとの仮説を立て、これを検証可能な実験系の確立を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、当初平成25年度に実施する予定であった諸研究を先行させて実施してきた。 まず、当初の計画通り、Cbp53E遺伝子のノックアウト系統を作出することに成功した。海外の系統維持センターにCbp53E遺伝子近傍に人為的組み換え配列であるFRT配列が挿入された系統が複数存在していた。そこで、これらの系統を取り寄せ、異なるFRT挿入染色体をヘテロに持つ個体を作出し、生殖系列の細胞で組み換え酵素FLPを発現誘導して相同染色体間での組み換えを誘導した。この子孫を候補系統として、PCR法によるスクリーニングによって、Cbp53Eの5'側もしくは3'側を欠失した染色体欠失系統Cbp53E[Df5p]およびCbp53E[Df3p]を樹立した。これらの系統は、いずれもCbp53E近傍の遺伝子も欠失しているが、その欠失領域が完全に排他的であるため、これらのヘテロ個体では、Cbp53Eのみが機能喪失して、近傍の遺伝子は1コピーの野生型対立遺伝子を保持するため、Cbp53E単独の機能喪失変異体とみなせると考えている。 次に、このCbp53E機能喪失変異体の表現型解析を行った。具体的には、RNAiによる機能減弱個体で見られていた、daニューロンの姉妹突起間での不完全な交差忌避が見られるかどうか検討した。GFPによる生体内での樹状突起視覚化のためのマーカー遺伝子を導入して三齢幼虫の樹状突起を観察したところ、高頻度に姉妹樹状突起が交差を起こしてしまう異常が検出された。 Cbp53Eが細胞内カルシウム濃度の緩衝剤として機能しており、その機能が姉妹樹状突起間の交差忌避に重要であることを示す検証実験として、Cbp53E変異体の樹状突起でのカルシウム動態を高い時間分解能で検討した。Cbp53E変異体では細胞内のカルシウム濃度が低下する際の時定数が有意に低下していた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、平成24年度に引き続き、(1)ニューロンの細胞内カルシウムの恒常性維持過程にどのような異常が見られるかを追究すると共に、(2)クラスIVdaニューロンの中枢における投射先および神経回路の同定・統制解析を進めていく。(1)については、daニューロンの発火パターンなどの神経活動と細胞内カルシウム恒常性との関係に注目して解析する。具体的には、解剖個体を用いて単一細胞の細胞内カルシウム動態と発火パターンを同時計測できる実験系を利用して、cbp53E変異体での神経活動を詳しく観察する予定である。(2)については、既に同定している標的ニューロンの候補細胞群についてチャネルロドプシンを用いた強制発火によって、高温受容に特有の回転逃避行動が惹起されるかどうかを検討していく。
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