研究実績の概要 |
我々が発見した時差消失マウス(NJLマウス)は、通常の時計遺伝子の発現は全く野生型と変わらない。しかも、30分程度の短い時間に光照射を、一日のさまざまな時間位相で行って、行動位相変位を観察して描くPhase-Response Curveも全く正常と変わらない。ところが、マウスを明暗環境下で飼育し、この時間スケールを8時間前倒しすると、野生型では新しい周期に同調するのに8-10日かかるのに、このNJLマウスは1-3日と速やかに行動位相を行う。行動リズムや光に対する反応は正常であるので、時差のみが消失した初めてのマウスと言える。概日リズムのセンターであるSCNにおいて、時差環境下における野生型マウスとNJLマウスのSCNにおける、時計遺伝子(Per1, Per2, Bmal1, Dbp)の発現プロファイルをReal-Time PCR法を用いて、定量的に解析した。この結果、野生型では、Per1, Per2, Bmal1, Dbpのリズムは時差開始後(8時間位相前進)速やかに、リズムは消失し、これらが完全に回復するには、8日を要した。この時計遺伝子の位相回復を、末梢時計の代表である肝臓のそれと比較したところ、9-10日要した。この差は、SCNから末梢へのシグナル変動に要する時間であると考えられる。同様の実験を、時差の無いNJLマウスで行ったところ、SCNではリズムが乱れるのはせいぜい1-2日のみで、3日目には完全に回復していた。NJLマウスの末梢の回復は、さらに2-3日遅れる傾向があった。さらに、体温リズムを測定したところ、野生型はやはり完全回復には10日要したが、NJLマウスでは5日であった。
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