研究領域 | 脳内環境:恒常性維持機構とその破綻 |
研究課題/領域番号 |
24111527
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中川 貴之 京都大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (30303845)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 神経障害性疼痛 / 免疫系細胞 / 脊髄内浸潤 / ミクログリア / マクロファージ / TRPM2 / 骨髄キメラマウス / 血液-脊髄関門 |
研究概要 |
GFPトランスジェニックマウスから採取した骨髄由来細胞を野生型マウスに骨髄移植したキメラマウスを利用し、末梢神経損傷(L5脊髄神経切断)時の常在性ミクログリアおよび脊髄内移行する免疫系細胞との関連を解析した結果、神経損傷3日後をピークとして、常在性ミクログリアが活性化され、引き続き7日後、14日後にかけて、末梢免疫系細胞、特に末梢由来マクロファージの浸潤が徐々に増加していく様子が観察された。また、常在性ミクログリアが活性化する領域と、末梢免疫系細胞の浸潤領域を解析した結果、両者とも切断したL5脊髄神経の脊髄支配領域を中心に吻側尾側に広がっており、それらの領域はほぼ一致していた。これらの結果から、末梢神経損傷により、まず、脊髄常在性ミクログリアが活性化され、その影響により血液-脊髄関門が破綻し、末梢免疫系細胞、特にマクロファージの脊髄内浸潤が誘導されているものと推察された。 一方、これまでの検討において、マクロファージおよびミクログリアに発現しているTRPM2チャネルが神経障害性疼痛に関与していることを明らかにしてきたが、どちらのTRPM2がより寄与が大きいかは不明であった。そこで、野生型/TRPM2-KOマウス間で骨髄キメラマウスを作成し、神経障害性疼痛への寄与を検討した。その結果、骨髄由来細胞(マクロファージ)のTRPM2をKOした場合でも、レシピエントマウス(ミクログリア)のTRPM2をKOした場合でも神経障害性疼痛は抑制された。また、いずれのキメラマウスでも、損傷した末梢神経周囲へのマクロファージ浸潤に差は認められなかったが、脊髄内浸潤するマクロファージ数が有意に減少した。一方、脊髄の常在性ミクログリアに変化は認められなかった。これらの結果から、TRPM2は末梢神経損傷時の骨髄由来マクロファージの脊髄内浸潤に関与し、神経障害性疼痛に寄与することが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
末梢神経損傷により脊髄内浸潤する免疫系細胞の経時変化と細胞種の同定、およびそのメカニズムの解析については、当初の研究計画通りに遂行でき、特にTRPM2との関連については当初の計画以上に進展できた。一方、原因不明の理由による遺伝子改変マウスの繁殖能力低下、および骨髄移植によるキメラマウス作製時に死亡例が多発したことなどから、実験計画の一部が遅延する結果となったが、平成25年度の初めにはこれら繁殖、キメラマウス作製時の不備は概ね改善できた。また、これまでの報告から、当初、末梢神経損傷により脊髄内浸潤する免疫系細胞の多くはT-リンパ球であろうと予想していたが、解析の結果、多くはマクロファージであり、Tリンパ球の浸潤はごく僅かであることが判明し、若干の研究計画の方針転換を余儀なくされた。また、末梢神経損傷により脊髄内浸潤する免疫系細胞の数が、他のEAEモデルなどと比較すると少なく、Cell Sortingなどによる分離採取が困難であったため、in vitro実験系として計画していた免疫系細胞とグリア細胞との連関については、実施することが困難であった。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究計画に若干の遅れがあるものの、研究の方針自体に大幅な変更は行わない。ただし、本新学術領域の班会議や他の学会において、骨髄キメラマウスを用いた免疫系細胞の脊髄内浸潤の解析法には限界があることを指摘されたため、ガンマ線照射を行わないマウスを用いた血液-脊髄関門の破綻、Iba1抗体では識別できないマクロファージ/ミクログリアだけでなく、他のTリンパ球などの免疫系細胞を指標とすることで、これらの問題を平成25年度の早期のうちに解決する。 また、平成24年度の検討から、脊髄内浸潤する免疫系細胞の経時変化がミクログリアより遅く、アストロサイトの活性化の経時変化とほぼ一致していること、アストロサイトが血液-脊髄関門の重要な構成細胞の1つであること、神経障害性疼痛に関連し、マクロファージの浸潤に重要な役割を果たすケモカインCCL2の脊髄内での主な産生細胞がアストロサイトであることなどから、本年度は、免疫系細胞の脊髄内浸潤のメカニズムにおけるアストロサイトの役割について重点的に検討を開始する。 また、当初の研究計画通り、脊髄内浸潤した免疫系細胞と常在性グリア細胞との連関について、上述したとおり、Cell Sortingなどによる分離採取は困難であったが、マウス数を重ねることにより対応する。
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