末梢神経損傷による末梢免疫系細胞の脊髄内浸潤経路を検討した。Evans Blue尾静注により、血液-脊髄関門破綻による脊髄後角での血管漏出を検討したが、末梢免疫系細胞の脊髄内浸潤がピークとなる、L5脊髄神経損傷7日、14日後においても、顕著な血液-脊髄関門の破綻が認められる実験的自己免疫性脳脊髄炎モデルと比較して、血管漏出は僅かなものでしかなかった。また、血管内皮細胞やタイトジャンクションに対する複数のマーカーの脊髄後角での発現変化を検討したが、L5脊髄損傷後でも変化は認められなかった。さらに、GFP陽性骨髄キメラマウスに蛍光色素DiIを静脈内注射し、血管を可視化してGFP陽性末梢免疫系細胞との関係を検討した。その結果、後根神経節においては、多数のGFP陽性細胞が血管と共存し、血管から漏出して後根神経節内に浸潤していく様子が観察されたが、脊髄後角においては、DiIで可視化された血管走行との立体的な位置関係は重なることはなく、血管から免疫系細胞が漏出している様子は観察されなかった。そこで、GFP陽性骨髄キメラマウスにおいて、切断したL5脊髄神経周辺を確認したところ、損傷部位周辺の脊髄神経および後根神経節に多数のGFP陽性マクロファージの他、一部、Tリンパ球の浸潤が認められ、さらに、数は少ないものの後根神経節より上位の後根への浸潤も認められ、その一部は脊髄後角にまで達するものであった。これらの結果から、末梢神経損傷時の免疫系細胞の脊髄内浸潤経路として、血液-脊髄関門の破綻による血管漏出の可能性は小さく、損傷した末梢神経束から後根を介した浸潤経路の可能性もあると考えられる。また、脊髄内においてマクロファージ走化性因子であるCCケモカインCCL2の産生が顕著に増加しており、末梢神経損傷時に脊髄内でCCL2を産生する主な細胞であるアストロサイトの関与も疑われる。
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