機能分子への酸化修飾の蓄積は、老化や疾患発祥の主要因の一つと考えられている。したがって、脳内環境に関する研究を進める上で、酸化環境に着目することは有意義であると考えられるが、十分な定量性と空間分官能を有する測定法はこれまで確立されていなかった。申請者は近年、リアノジン受容体(RyR)のカフェインに対する応答性(CICR)は酸化シグナルによる影響を受けないが、一酸化窒素(NO)に対する応答(NICR)は阻害されることを見出し、NICR/CICR比の測定による酸化状態モニター法を考案した。本研究では、NICR/CICR比の測定による細胞内酸化状態モニター系を確立した上で、脳神経細胞内酸化環境をモニターし、老化・神経変性疾患との関連性解明を目指したが、研究期間内に以下のような成果が得られている。 ・若齢マウス個体由来の小脳スライス標本を、様々な濃度の過酸化水素で前処理し、カルシウムイメージング法によりプルキンエ細胞のNICR、CICRを測定し、NICR/CICR比を求めたところ、濃度依存的な低下が確認された。また、NICR/CICR比の低下に伴い、小脳で発現するRyRにおけるジスルフィド化修飾が増加することを、ジスルフィド化修飾を選択的に検出する生化学的手法を自ら確立して明らかにした。 ・個体の加齢に伴い、プルキンエ細胞のNICR/CICRの低下及び小脳におけるジスルフィド化修飾の増加が見られることを、生後20ヶ月齢の老齢個体マウスを用いて明らかにした。 ・ホスホチロシンアダプター分子の一種、ShcBの遺伝子欠損マウスにおいて、小脳依存的な運動学習が阻害されることを明らかにし、さらに、その原因として小脳平行線維シナプスの可塑性、小脳プルキンエ細胞における小胞体カルシウムストアの機能維持に阻害が見られることを示した。
|