研究領域 | 脳内環境:恒常性維持機構とその破綻 |
研究課題/領域番号 |
24111532
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
萬代 研二 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 特命准教授 (50322186)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 大脳皮質 / アファディン / 神経発生学 / 分子神経生物学 |
研究実績の概要 |
大脳皮質は神経細胞やグリア細胞からなる層構造を形成して神経系の中枢としての機能を果している。発生期の脳においては、大脳皮質の脳室帯に存在する神経前駆細胞(ラディアル細胞)は等分裂で自己増殖するとともに、不等分裂で神経前駆細胞と神経細胞あるいはグリア細胞を産生する。また、神経前駆細胞は不等分裂で中間神経前駆細胞を産生し、この細胞は等分裂で神経細胞を産生する。産生された新生神経細胞は、大脳皮質の特定の層に放射状に遊走して定着する。一方、神経前駆細胞の等分裂と不等分裂は、神経前駆細胞間のアドへレンスジャンクションが関与する機構によって制御されていることが明らかにされている。本研究では、アファディンによるアドへレンスジャンクションを含む細胞間接着形成の制御に着目して、アファディンが神経前駆細胞から中間神経前駆細胞や神経細胞、グリア細胞への分化と大脳皮質の層形成を制御することを予想し、大脳皮質の発生過程におけるアファディンの機能を解析している。平成24年度は以下の事実を明らかにしている。発生期のマウス脳においてアファディンの局在を検討したところ、アファディンは神経前駆細胞の細胞間接着に濃縮していることが確認された。次に、アファディンをnestin-Cre依存性に欠損させた変異マウスを作成した。発生後期の変異マウス胎仔では、脳室が拡大し大脳皮質が薄層化していた。一方、神経前駆細胞や中間神経前駆細胞および新生神経細胞の局在が異常となり、神経前駆細胞と中間神経前駆細胞の数が減少していた。さらに、大脳皮質において細胞周期から脱して増殖を停止した細胞の割合が増加していた。したがって、アファディンは神経前駆細胞の増殖と神経細胞やグリア細胞への分化、ならびに神経前駆細胞と神経細胞の位置決めを制御していることが示唆された。本年度の成果の一部は投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度はアファディンコンディショナルノックアウトマウス(Afadin f/f;nestin-Cre)のフェノタイプを詳細に記述することを第一の目標とした。それによって、発生後期の変異マウス胎仔では、脳室が拡大し大脳皮質が薄層化すること、神経前駆細胞や中間神経前駆細胞および新生神経細胞の局在が異常となり、神経前駆細胞と中間神経前駆細胞の数が減少すること、さらに、大脳皮質において細胞周期から脱して増殖を停止した細胞の割合が増加することを明らかにした。したがって、アファディンは神経前駆細胞の増殖と神経細胞やグリア細胞への分化、ならびに神経前駆細胞と神経細胞の位置決めを制御していることが示唆された。得られた知見に基づき、胎仔の皮質から神経前駆細胞を含む細胞を培養し細胞分化をin vitroにおいて、現在評価している。このように、今年度は当初予定した実験を中心に行い、アファディンの解析に関してはその目的はほぼ達成した。しかし、ネクチンに関しては、アファディンをフェノコピーするような明らかなフェノタイプが認められず、解析が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、前年度の研究を発展させ、別のCreラインを使ったアファディンコンディショナルノックアウトマウス(Afadin f/f;Emx1-Cre)を用いて同様の解析を行う。Emx1-Creは大脳においてのみCre酵素活性を示しAfadin f/f;nestin-Creマウスで認められた水頭症を呈しない可能性がある。さらに、Emx1-Creはnestin-Creに比べ、1日早くCreが活性化される違いもある。このような解析から、アファディンの大脳皮質形成における機能が明らかにされ、アファディンの発現低下が報告されている統合性失調症などの発症の理解につながる可能性が期待される。
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