研究領域 | 脳内環境:恒常性維持機構とその破綻 |
研究課題/領域番号 |
24111533
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
浅沼 幹人 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (00273970)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | アストロサイト / 神経保護 / 抗酸化防御機構 / プロファイリング |
研究実績の概要 |
(1) 各種刺激による初代培養アストロサイトの部位特異的プロファイリング:ラット胎仔の前頭皮質,線条体,中脳からの初代培養アストロサイトに,ロテノン,過酸化水素, 6-OHDAを添加・負荷を行い,発現が増減し,さらに神経変性がみられる部位とみられない部位のアストロサイトの間で発現に差異のある因子をDNAマイクロアレイを用いて網羅的に検索した.ロテノン,6-OHDA処置によりアストロサイトの部位特異的発現差異のみられた分子を同定することができた.現在,それらのプロファイリングを行っている. (2)初代培養神経・アストロサイト共培養系を用いた部位特異的プロファイルの確認と神経保護効果の検討:初代培養中脳ドパミン(DA)神経と異なる脳部位からのアストロサイトとの共培養に酸化ストレスとして過酸化水素,6-OHDAを添加したところ,6-OHDA処置において前頭皮質,中脳アストロサイトとの共培養に比べ,線条体アストロサイトとの共培養の方がDA神経生存率は有意に高かった.さらに,6-OHDA処置した線条体アストロサイトの培養液を添加した中脳DA神経の生存率は,6-OHDA処置した中脳アストロサイトの培養液を添加した場合に比べ有意に高く,6-OHDAのDA神経毒性に対して線条体アストロサイトから何らかの神経保護作用を有した因子が放出されている可能性が考えられた.一方,既に我々が神経保護薬候補薬剤として選定したセロトニン5-HT1Aレセプターアゴニスト8-OH-DPATが,アストロサイト上の5-HT1Aレセプターに作用し,アストロサイトでのメタロチオネインの発現・放出を介して,6-OHDAによる培養DA神経変性に対して保護効果を発揮することを見出した.また,パーキンソン病モデルに8-OH-DPATを連日投与することにより,黒質DA神経変性が有意に抑制できることも明らかにできた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
いくつかの刺激・侵襲に対するアストロサイトとその抗酸化防御機構を含む因子の反応性の部位による差異を明らかにすることができ,部位特異的プロファイルの差異と神経細胞の脆弱性・抵抗性の関係を解明するための基礎資料が得られている.また,既存の中枢作用薬の中から神経保護候補薬剤を選定し,セロトニン5-HT1Aレセプターアゴニストの8-OH-DPATがアストロサイト上の5-HT1Aレセプターに作用し,アストロサイトでのメタロチオネインの発現・放出を介し,神経・アストロサイト共培養系およびパーキンソン病モデルマウスにおけるドパミン神経変性に対して保護効果を発揮することを見出した.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き,以下の検討を行う. (1)各種刺激による初代培養アストロサイトの部位特異的プロファイリング:ロテノン,6-OHDA処置によりアストロサイトの部位特異的発現差異のみられた分子のプロファイリングを行う.ラット胎仔の前頭皮質,中脳,脊髄からの初代培養アストロサイトに,筋萎縮性側索硬化症,脳虚血の培養モデルとなる多様な刺激を添加・負荷することにより発現が増減し,さらに各疾患で神経変性がみられる部位とみられない部位のアストロサイトの間で発現に差異のある因子をDNAマイクロアレイを用いて同定する, (2)初代培養神経・アストロサイト共培養系を用いた部位特異的プロファイルの確認と神経保護効果の検討:DNAマイクロアレイで,部位特異的発現差異が確認できた因子について,その部位の神経細胞・アストロサイト共培養系および他部位のアストロサイトとの共培養系に刺激を加え,(1)でみられた因子およびアストロサイトの増殖や抗酸化防御機構の諸因子,グルタミン酸トランスポーターGLT1などの変化をみる,またそれらの因子の発現を修飾することによる神経障害および神経保護効果について検討する, (3)疾患動物モデルでのアストロサイトの部位特異的プロファイルの確認と神経保護効果の検討:培養系での結果を動物で確認するために,その刺激に対応する疾患動物モデルを使って各脳部位,脊髄でのアストロサイトの動態と部位特異的発現差異が確認できた因子などの変化を検討する.さらに,反応性の部位による差異がみられたアストロサイトの因子自体,誘導薬,阻害薬の連日投与を行い神経保護効果について検討する. 以上の検討を行うことにより,様々な刺激・侵襲に対するアストロサイトの部位特異的プロファイルの差異と神経細胞の脆弱性・抵抗性の関係を明らかにし,その部位特異的プロファイルの修飾が神経保護薬開発の標的となりうることを提唱できる.
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