公募研究
脳老化と神経変性疾患発症の分子機構の解明を目指して交付申請書に記載した本年度の項目について研究を行う予定であったが、項目中の最重要実験である薬物投与実験が使用施設の改修工事のため遅延したため、この実験に必要な研究費分(1000000円)の繰越し手続きを行った。当初の計画より遅れることとなったが、当該実験を行い以下の成果が得られた。1)脳IRS2の欠損が神経細胞変性に与える影響:インスリン様シグナルの主要調節因子IRS2の脳における欠損がドーパミン(DA)神経細胞に与える影響について解析を行った。DA神経細胞マーカー(TH)に対する抗体と抗IRS2抗体を用いた二重免疫染色により、IRS2が中脳黒質線条体DA神経細胞に発現することを確認した。さらに、22ヶ月齢の脳特異的IRS2欠損(変異)および同齢対照マウスに対して中脳黒質線条体DA神経細胞変成誘導薬MPTPを投与し、DA神経細胞死を誘発させた後、抗TH抗体を用いた免疫組織学的解析を行い、老齢変異マウスのDA神経細胞死は有意に抑制されることが判った。これらの結果から、DA神経細胞内IRS2の欠失は神経保護作用を有することが示唆された。2)酸化ストレスとエネルギー動態についての解析:神経保護作用を有する細胞内ATPやミトコンドリア転写因子A (TFAM)と酸化ストレスのマーカーである活性酸素(ROS)レベルを蛍光法及び定量PCR法によりそれぞれ測定した。老齢脳IRS2欠損マウス脳内ATPレベル及びTFAPの発現は同齢コントロール群に比べ増加傾向にあったがROSの値に差は見られなかった。しかしながら、若齢変異マウス脳内TFAMのレベルは顕著に増大していたことから、若齢期におけるTFAMの増加が老齢期に至るまでの過程において神経保護作用を誘導していた可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
本研究代表者は2011年10月下旬に米国より現所属に赴任した際に、本研究の遂行に必須である共焦点顕微鏡が研究室内に無く、一日の使用時間が決まっており、加えて週末祝日の使用ができない共通機器室の共焦点顕微鏡を使用しなければいけない状況にあることを知った。新天地で急ぎ研究を軌道に乗せる必要があるにも関わらず、限定された研究環境下で実験をスタートし遂行させることは大変に困難であったが、研究分担者、連携研究者及び研究補助員の協力的サポートとチームワークにより、大きな遅れを回避することができ、ほぼ予定通りに計画した研究を遂行することができた。
今年度に得た研究成果を基盤とし研究計画に従って以下実験を行う。1.ドーパミン代謝率の測定:MPTP投与老齢マウス脳内ドーパミンおよびその代謝産物量をHPLC法によって測定し、ドーパミン代謝率を明らかにする。2. 神経変性及び神経保護作用におけるグリア細胞の変化についての解析:MPTP投与老齢マウス中脳におけるアストロサイト、マイクログリアの変化について解析する。3.MPTP誘発性パーキンソン病in vitroモデルの確立:MPTP誘発性神経変成を抑制し神経保護作用を示した脳IRS2欠損マウスの胚12.5~14 日Ventral Mesencephalons (VMs)からミクログリア単離培養法によりミクログリアとアストロサイトを準備し、またドーパミン神経細胞を単離した後に3種細胞を混合することで、中脳黒質線条体初代培養系を確立する。その後MPTPの投与によりin vitroパーキンソンモデル系を構築する。ミクログリア単離培養法は本手法のパイオニアであり脳内環境研究班の同班員でもある名古屋大学環境医学研究所の竹内 英之博士の研究グループとの共同研究により行う。4. 神経変成あるいは神経保護作用を誘導する分泌因子の探索:構築したin vitro MPTP誘導性パーキンソン病モデル系の培養上清を用いてマルチプレックスサスペンションアレイ及びプロテオーム解析を行い、含まれる分泌因子を探索する。5.同定された分泌因子がパーキンソン病遺伝モデルに与える影響の解析:同定分泌因子を持続的にパーキンソン病遺伝モデルマウス脳内へ投与し、運動機能、ドーパミン神経細胞、a-Synについて解析を行い、同定分泌因子の機能を評価する。
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Am J Respir Crit Care Med
巻: 187 ページ: 262-275
10.1164/rccm.201205-0851OC