DNA/RNA結合タンパク質であるFUS(TLS)をコードする遺伝子への変異は、家族性の筋萎縮性側索硬化症の原因として報告されている。さらに、病因性変異はFUSの核内移行シグナルとして機能するC末端領域に数多く同定されており、変異型FUSは細胞質に異常に蓄積することで本来の機能を喪失することが提案されている。しかし、C末端領域以外にも多くの病因性変異が見つかっており、そのような変異型FUSは野生型と同様に核内に局在することから、変異型FUSによるALSの分子病理メカニズムは明らかでない。 そこで、野生型及び各種のALS変異型FUSタンパク質を作製・精製し、その凝集反応を試験管内で比較検討したところ、核内移行シグナルに影響を及ぼさない病因性変異(G156E)はFUSの凝集性を増大させ、アミロイド様の線維を形成することが分かった。また、G156E変異型FUSはヒト神経芽細胞腫SH-SY5Yやラット海馬神経初代培養細胞において、核内で凝集体を形成することを明らかにした。興味深いことに、G156E変異型FUSが核内に凝集体を形成した神経細胞では、MAP2の染色性が低下しており、何らかのダメージを受けていることが示唆された。さらに、G156E変異型FUSが形成する線維はシードとして機能することで、野生型FUSを線維化させることが分かった。実際、核内に形成するG156E変異型FUSの凝集体には、野生型FUSが共局在していることが明らかとなった。 つまり、細胞内局在に影響を及ぼさないアミノ酸変異であっても、FUSの凝集性を増大させる変異が存在することが分かった。そのような変異型FUSが核内で形成する線維状凝集体は、シードとして野生型FUSの線維化を促進することができ、FUSの生理機能を「雪だるま式」に低下させることで、神経細胞死を引き起こすと考えられた。
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