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2012 年度 実績報告書

遅発性小脳失調モデル動物を用いた軸索変性機序の解明

公募研究

研究領域脳内環境:恒常性維持機構とその破綻
研究課題/領域番号 24111543
研究機関東京慈恵会医科大学

研究代表者

岡野 ジェイムス洋尚  東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (90338020)

研究期間 (年度) 2012-04-01 – 2014-03-31
キーワード神経変性疾患 / 神経科学 / 小脳 / RNA結合タンパク質
研究実績の概要

神経特異的RNA結合タンパク質Huファミリーは標的RNAの安定化や翻訳促進により神経前駆細胞からニューロンへの分化を促進することが知られている。HuCノックアウト(KO)マウスは正常に発育するが生後7ヶ月になると歩行障害などの運動失調症状を呈する。このマウスの小脳では神経回路が正常に形成されたのちに遅発性にシナプス脱落を伴ったプルキンエ細胞の軸索変性が起こるが、プルキンエ細胞は細胞死には至らない。球状に変性した軸索にはミトコンドリアやAPPが貯留していることから軸索輸送の不全が疑われている。我々は小脳におけるHuCの標的RNAとしてKinesinを含む複数の標的候補遺伝子を同定した。KIF3AおよびKIF3CはHuCによる翻訳調節を受け、HuC KOマウスのプルキンエ細胞ではKIF3Aの発現レベルが低下していた。また、HuC KOマウス由来培養プルキンエ細胞にKIF3A遺伝子を強制発現させると部分的に軸索変性を是正できることがわかった。これらの知見は、HuCが複数のモータータンパク質の発現量を統合的に調節しているため、HuCが欠失すると軸索輸送を担うそれらのKinesinタンパク質のレベルが同調的に低下し、結果的に軸索輸送の障害が起こって軸索変性・シナプス脱落に至るという病態モデルを示唆している。そこで、ミトコンドリアの移動速度を測定するために、生後1日齢のマウス小脳由来培養プルキンエ細胞にアデノウイルスベクターを用いてミトコンドリアを標識するレポーター遺伝子Mito-Venusを導入し、ライブイメージングを行った。本測定技術を用いて野生型とKOマウスの軸索輸送速度を比較することにより遅延の有無を定量的に検討する。一方、プルキンエ細胞と同様に長い軸索を有する脊髄運動ニューロンにおいては、横隔膜における神経筋接合部の形態等に異常が見られなかった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究は順調に進展しており、初年度の研究目的をほぼ達成した。
HuC標的候補遺伝子を同定するために行ったRIP-CHIP法は簡便であるが特異性があまり高くないことが知られている。候補遺伝子を、KOマウス小脳において発現量が異常変動すること、軸索における機能が明らかになっていること、HuCが標的候補mRNAに結合すること、非翻訳領域を含む全長cDNAを培養細胞で発現させHuCの共発現によりタンパク質レベルが変化することなどを指標に絞り込んだ結果、KIF3A、KIF3Cを最有力標的候補とし、優先的に解析することとした。レスキュー実験を含む初年度の研究成果によりKIF3A、KIF3Cの発現低下が軸索変性に関わる可能性を示すことができた。さらに、軸索輸送速度を測定する解析方法の確立に成功しため、KOマウスにおける軸索輸送能を調べることができるようになった。
また、HuC標的候補遺伝子をさらに絞り込むためにHITS-CLIP法を行った結果、KIF2A遺伝子の選択的RNAスプライシングパターンの変化が軸索変性に関与する可能性も浮上してきた。このように、本研究は当初の計画通り順調に進展している。

今後の研究の推進方策

①HuC標的候補遺伝子の検証と軸索変性への関与の可能性の検討
KIF3A、KIF3Cに対するsiRNAを作成し、shRNAとして発現ベクターに組み込み、野生型マウス由来プルキンエ細胞において強制発現させ、軸索の形態評価およびミトコンドリア輸送速度など機能的評価を行って軸索変性の誘発効果があるか検討する。一方、HITS-CLIP法によるHuC標的遺伝子の同定を行った結果、HuCは標的遺伝子の翻訳を調節するのみならず、選択的RNAスプライシングも制御することが明らかになった(Ince-Dunn G, Okano HJ et al. Neuron. 2012)。同定された標的のうち、KIF2A遺伝子のエクソン12の選択がHuCによって正に制御されていることが示唆された。そこで免疫組織化学染色、RT-PCR法にてHuC KOマウス小脳におけるKIF2A発現領域およびエクソン12のスプライシングパターンを精査し、プルキンエ細胞における標的であるか検討する。
②軸索変性機序解明にむけた遺伝子発現量・スプライシングパターンの解析
HuCが選択的RNAスプライシングを制御することが明らかになったことを受け、小脳における軸索変性の機序をより詳細に検討するため、HuC KOマウス小脳における網羅的RNAスプライシングパターン解析を行う。野生型およびHuC KOマウス各3個体の小脳抽出液からRNAを精製し、逆転写、蛍光ラベルしたのちExon Array (Affimetrix)解析を行う。異常が見られた遺伝子については、RT-PCR法にてHuC KOマウス小脳におけるスプライシングパターンを精査するとともに発現領域を調べ、標的候補としてレスキュー実験を行う可能性を検討する。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2012

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] HITS-CLIP reveals nElav (Hu) proteins regulate RNA splicing and abundance to control brain glutamate levels and neuronal excitability.2012

    • 著者名/発表者名
      Ince-Dunn G.
    • 雑誌名

      Neuron

      巻: 75 ページ: 1067-1080.

    • DOI

      10.1016/j.neuron.2012.07.009.

    • 査読あり
  • [学会発表] HuC is required for maintenance of the axon in cerebellar Purkinje cells2012

    • 著者名/発表者名
      岡野ジェイムス洋尚
    • 学会等名
      第35回日本神経科学大会
    • 発表場所
      名古屋国際会議場(名古屋)
    • 年月日
      2012-09-18 – 2012-09-21

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公開日: 2018-02-02  

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