研究領域 | 脳内環境:恒常性維持機構とその破綻 |
研究課題/領域番号 |
24111549
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
檜山 武史 基礎生物学研究所, 統合神経生物学研究部門, 助教 (90360338)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | アストロサイト / イオンチャネル / エンドセリン |
研究実績の概要 |
申請者は、これまで脳室周囲器官等のアストロサイトに発現するナトリウムチャンネルNaxの機能と生理的役割について解析してきた。その中でNaxが体液のNa+レベル上昇を感知して開口するNa+レベルセンサーとして機能していることを明らかにした。最近、外傷性脳損傷部位においてNaxの発現が誘導されることが報告された。しかし、脳損傷部位においてNa+レベルが上昇するとは考えにくく、Naxを開口する別の刺激の存在が想定されたが、その実体は不明であった。 本研究において、エンドセリンB型受容体(ETBR)を介してエンドセリンシグナルがNaxを開口させることを新たに見出した(Hiyama et al., Cell Metabolism, 2013)。脳損傷部位ではエンドセリンシグナルが活性化することがわかっている。我々のこれまでの研究から、Naxが開口するとアストロサイトから乳酸の放出が亢進することが明らかになっている。乳酸は、神経傷害部位において神経保護作用を示すことが判っている。このことから、Naxが脳損傷部位の神経細胞を保護に関与している可能性が示唆された。 また、Naxを細胞膜において安定化する新しい機構を見出した。Naxのカルボキシル(C)末端の配列が、PSD-95/Disc-large/ZO-1 (PDZ)結合モチーフに合致すると推定されたことから、NaxのC末端領域に結合するPDZタンパク質の同定を試みた。PDZアレイを用いてスクリーニングしたところ、synapse-associated protein 97 (SAP97)を含む複数の分子がNaxに対する結合分子候補として同定された。その中でSAP97はSFOにおいてNaxと共発現し、Naxの細胞膜上での安定化に寄与していることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、これまで体液Na+センサーとしての機能しか明らかになっていなかったNaxチャンネルが脳損傷部位において発現するという最新の知見に基づき、その役割を明らかにすることを目的とする研究である。Naxは、細胞外Na濃度の上昇を感知して開口するチャンネルであることがわかっていたが、その他にNaxの開口につながる刺激は明らかになっていなかった。本研究を進める上で最も大きな問題点は、脳損傷時に細胞外Na+濃度が高まるとは考えられず、Naxがチャンネルとして機能する機構を探らねばならないことであった。本年度の研究により、このエンドセリンによりNaxが開口することが明らかになり、この最大の疑問を解決する目途が立った。これにより、本研究計画は当初描いていた方向に向けて大きく前進した。しかし、当初計画では、もっと早く解決すると考えていたため、想定していた計画に比べると結果的に計画全体が遅れたことになった。また、2光子顕微鏡の導入も、政府調達等の手続きに予想以上に時間がかかり、運用開始時期が25年度春にずれ込むこととなったため、この顕微鏡を用いて解析する実験計画が遅れることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画は、全体的にやや遅れているものの、当初想定していた方向で結果が出始めているので、このままピッチを上げて研究を進める。25年度は、以下のように研究を進める。 (1)リアクティブアストロサイトのin vivoイメージング:2光子レーザー走査型顕微鏡を用いて生きたマウスの脳内において脳損傷後のリアクティブアストロサイトの動態を観察する。(2)脳損傷後の脳における分子発現:脳損傷後の脳において、Nax、エンドセリン(ET-1、ET-2、ET-3)、エンドセリン受容体(ETAR、ETBR)、乳酸の輸送体であるMCT等の発現を調べる。(3)脳損傷後の神経細胞障害におけるNaxの役割の検証:Naxが神経保護作用に関与していることを検証するため、脳損傷後の神経細胞死をNax-KOマウスと野生型マウスとの間で比較する。(4)脳損傷後の神経細胞障害におけるエンドセリン及び乳酸の役割の検証:エンドセリンシグナル及び乳酸が神経保護作用に関与していることを検証するため、脳損傷後に、エンドセリン受容体ETBRの阻害剤BQ-788や乳酸輸送を担うモノカルボン酸トランスポーター(MCT)の阻害剤α-cyano-4-hydroxycinnamic acid (α-CHCA)を、浸透圧ポンプを用いて脳室内に持続的に投与し、アポトーシスを起こしたニューロンの数を計測する。(5)Nax-KOマウスの脳に対するNax遺伝子の導入・発現:主にグリア細胞に感染することがわかっているアデノウィルスを用いて、脳損傷直後のNax-KOマウスの脳にNax遺伝子を導入する。Naxが発現した領域においてアポトーシスの改善が見られるか、検証する。
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