研究実績の概要 |
NF-Yは、NF-YA, -YB, -YCの3者複合体からなる転写因子であり、プロモーター領域のCCAATモチーフに結合し、遺伝子発現を制御している。そのノックアウトマウス・繊維芽細胞を用いた解析から、NF-Yが細胞周期制御を介した細胞増殖に必須であることが示されている。このNF-Yの機能は未分化細胞の増殖・維持にも重要であるが、その活性は非分裂細胞へと分化する際に消失することが知られている。 一方で、NF-Yは、分化した非分裂の神経細胞でも活性が保存されている。また、最近、我々は、神経変性疾患であるハンチントン病のモデルマウス脳で、病態進行に伴いNF-Yが変異ハンチンチンと共凝集し、その活性が低下することを明らかとした。これらのことから、NF-Yは分化した神経細胞でも、その維持・機能になんらかの役割を担っていると期待される。本研究ではNF-YAのノックアウトマウスを用いて、神経細胞でのNF-Yの生理機能の解明を目指す。 今年度は、脳神経細胞特異的ノックアウトマウスの解析から、NF-Yの機能破壊が、グリオーシスを伴う神経変性を引き起こし、マウス脳重・体重減少、寿命短縮といった重篤な症状を誘発することを明らかとした。変性神経細胞では、タンパク質の不溶化・蓄積が観察され、また、細胞内小器官の構造変化も見出された。一方、脳組織抽出液より、NF-Y特異抗体を用いたクロマチン免疫沈降-DNA microarray(ChIP-chip)を行い、NF-Yの生理的ターゲット遺伝子を検索したところ、シャペロン関連因子等様々な遺伝子が同定された。よって、NF-Yは、これら遺伝子の発現を制御して神経細胞の維持・生存に重要な役割を果たしており、その機能阻害は、細胞の質的・構造的異常を伴う神経変性を誘導することが示唆された。
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