公募研究
パーキンソン病は高い罹患率を示す老人性神経変性疾患であり、異常なミトコンドリアの蓄積が原因の一つであると考えられているが、その発症機構には未だ不明な点が多く残されている.申請者は特に「異常なミトコンドリアが認識・識別される仕組み」と「異常なミトコンドリアによって Parkin が活性化される仕組み」に着目して解析を行っている。前者に関して、現在主流の仮説は PINK1 の膜電位依存的な分解という「量的な制御」に注目したものであるが,申請者は今年度に PINK1 は「質的にも制御」されていることを示して、当該分野に大きなインパクトを与えた。即ち申請者は1)PINK1 がミトコンドリアの膜電位の低下に伴って自己リン酸化される、2)この自己リン酸化は種々の患者由来の変異 PINK1 では阻害されている、3)MS 解析とセリン/スレオニンに対する変異導入を組み合わせた実験から、PINK1 の自己リン酸化部位は Ser228 と Ser402 である、4)この部位をアラニンに置換した変異 PINK1(S228A/S402A) は Parkin をミトコンドリアに移行させることができないが,この部位をアスパラギン酸(リン酸基を模倣するアミノ酸)に置換した変異 PINK1(S228D/S402D) は自己リン酸化非依存的に Parkin をミトコンドリアに移行させる、ことを明らかにした。上記の成果は「PINK1 の Ser228/Ser402 自己リン酸化を介した質的制御が異常なミトコンドリアの認識に決定的に重要である」ことを示し、現在流布している仮説に新しい視点を持ち込むものである.これらの知見は原著論文として報告し(Nat Comm 2013)、また朝日新聞・毎日新聞・日本経済新聞などでも取り上げられた。
2: おおむね順調に進展している
研究計画調書の研究目的に「PINK1 のキナーゼ活性の意義の解明」と記したが,パーキンソン病の発症に関わる現象の最上流イベントとして新たに「ミトコンドリアの膜電位の低下に伴う PINK1 の自己リン酸化」を見出した。この現象は PINK1 のキナーゼ活性に依存しており,PINK1 のキナーゼ活性の意義の少なくとも一部を解明したものであり、研究はおおむね順調に進展していると考える.
研究は概ね順調に推移しており、当初計画に従って予定通りにこのまま研究を推進する.
すべて 2012 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
Biochem. Biophys. Res. Commun.
巻: 428 ページ: 197-202
10.1016/j.bbrc.2012.10.041
Nat. Commun.
巻: 3 ページ: 1016
10.1038/ncomms2016
http://www.igakuken.or.jp/research/topics/2012/0822.html