公募研究
宇宙可視光背景放射(COB:Cosmic Optical Background)には、赤方偏移6から現在までに、放射された紫外線および可視光のすべてが含まれている。原始銀河雲(ビルディグブロック)が衝突合体して銀河に成長していくときに放射される紫外線、これから集積して銀河となっていくビルディグブロックからの紫外線、銀河間空間にただよう星、ガス、ダストなどによる放射あるいは散乱光など、赤方偏移6以下の過去に起こった現象のあらゆるものがCOBに記録されている。我々はパイオニア探査機のデータを解析して、2011 年に至り世界に先駆けてCOB の検出に成功していたのであるが、測定精度をさらに向上させるための試みを行っている。平成24 年度においては、(1) 地上からの観測研究と(2)ハッブル宇宙望遠鏡(HST)のアーカイブによる研究を平行して行った。(1)COB を測定する前に除去しなければならない前景放射である銀河拡散光(DGL)を地上から観測し、良質のDGL スペクトルの取得に成功した。得られたスペクトルは予想以上に赤く、近赤外線の拡散光においてもDGL の寄与を無視できない可能性を示唆するものとなった。本研究の結果は、Astrophysical Journal 誌に掲載された。(2)HSTアーカイブの研究においては、紫外線から遠可視光におけるskyスペクトルを解析し、黄道光と銀河拡散光を引き去った後の等方放射成分の抽出に成功した。等方成分は銀河系外起源の放射と考えられてきたが、紫外線から遠可視光の等方成分のスペクトルは、黄道光のスペクトルに良く似ており、太陽系内起源であることを強く示唆している。
1: 当初の計画以上に進展している
宇宙背景放射を測定するには、全天に広がる強い前景放射である銀河散乱光と黄道光を精度よく、観測されたデータから除去しなければならない。黄道光については、これまで多くの観測がありモデルも構築されているが、銀河拡散光に関する研究は少なかった。平成24年度における地上観測により、銀河拡散光への理解が進み、これまで銀河拡散光の寄与は無視できるとされた近赤外線領域においても、銀河拡散光を考慮しなければならないことがあきらかになった。HSTアーカイブによる研究では、黄道光と銀河拡散光を引き去った後に得られた等方放射成分のスペクトルが、黄道光のスペクトルに良く似ていることを発見し。これまでの黄道光モデルでは等方成分の存在は無視されていた。我々は、黄道光の等方成分を正確に求めることで、宇宙背景放射を正確に測定する方法を見いだしたのである。
ハッブル宇宙望遠鏡とCOBE衛星で取得されたデータに対して、銀河拡散光と従来の黄道光のモデルを同時にフィットさせて、紫外線から近赤外線における等方放射成分のスペクトルを求める。そのスペクトルと黄道光のスペクトルを比較し、黄道光の等方成分と銀河系外起源の等方成分を分離することを次年度の目標とする。我々は、従来の黄道光モデルでは等方成分が無視されていたという観測的証拠をすでに得ており、それに基づき宇宙背景放射の観測的研究に画期的な寄与ができるものと確信している。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件) 備考 (1件)
Astrophysical Journal
巻: 767 ページ: 80 - 91
10.1088/0004-637X/767/1/80
http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/~kkawara