宇宙初期に起こったインフレーションの時期におけるゆらぎの生成過程において生じる赤外発散の問題について引き続き研究を進めた。一昨年度までの研究では、完全なゲージ固定をおこなわない場合であっても、問題となる残余のゲージ自由度に影響されないような真にゲージ不変な観測量を計算することで赤外発散は除かれるという着想から、赤外発散が1-ループの補正に現れないための条件として、初期の量子状態め選び方が制限されることを発見した。昨年度は、さらに、導出に際して、非線形なハイゼンベルグ方程式を解く段階で特殊な解を選んでいた点と、スローロール近似を用いていた点が不満であったが、スローロール近似に依存しない議論をおこなうことができるような枠組みの整備を進め、やはり、そう簡単には赤外発散を起こさない状態を選ぶことはできず、状態に対する強い制限がつくことを再確認した。 本年度はこの結果を論文としてまとめ発表した。一般的に宇宙論的摂動論の計算においては、断熱的真空状態という特殊な状態を選ぶことが主流となっている。この真空はミンコフスキー真空の曲がった時空上への拡張の一つと考えられるので、真空の選び方の有力な候補となる。この場合に赤外発散がないということが示されれば、多くのこれまでの研究を正当化し基礎付けを与えることができる。我々は、この特殊な状態(およびこの状態を元にしたゲージ不変な励起状態)を考えるという限られた状態に対してのみ赤外発散がないという予想にたち証明を与えるべく研究を進めているが、完全な解決には至っていない。
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