研究領域 | 背景放射で拓く宇宙創成の物理―インフレーションからダークエイジまで― |
研究課題/領域番号 |
24111712
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
唐津 謙一 国立天文台, 先端技術センター, 研究員 (80624783)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 電波天文学 / 超伝導電波カメラ / 宇宙物理 |
研究実績の概要 |
いまだ観測されていない宇宙マイクロ波背景放射のBモード偏光を発見するためには、既存の検出器より感度の高い、1000素子規模の超伝導電波カメラが必要であり、我々は多素子化が容易なMKID(Microwave Kinetic Inductance Detector:超伝導共振器)カメラの開発を行っている。 我々はMKIDを平面アンテナに結合させるデザインを採用しており、集光系にはシリコン製の合成楕円レンズ(半球レンズと平面延長部分の組み合わせ)を用いている。このとき、レンズの大きさがビームパターンの質やMKID素子の集積度合及び素子数に効いてくる。そのため、製作したMKIDカメラのビームパターンを正確に測定し、MKIDカメラの性能評価及びアンテナやレンズデザインへのフィードバックを行うことによって、デザインを最適化することが重要となる。 昨年度中に、宇宙マイクロ波背景放射に対する感度計算を行い、感度が最大となるレンズサイズを見積もった。このレンズサイズの直径は1.2×(F値)×(波長)である。 次に、F値=1のビームパターン測定用光学系を設計し、この光学系で感度が最大となる、レンズサイズ1.2波長のMKIDカメラを設計した。このMKIDカメラの素子数は約600素子である。 また、読み出し回路の開発も行った。従来型のMKIDカメラの読み出しでは、周波数スイープの方法によって、1つ1つのチャンネル(MKIDの共振周波数)を別々に読み出していたが、今回開発した読み出し回路では、多周波数を同時に読み出すことによって、MKIDカメラの複数のチャンネルを同時に測定できる。この読み出し回路によって、MKIDカメラのビームパターン測定における効率性が飛躍的にあがることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、昨年度中にビームパターン測定系を構築し、「ビーム測定→MKIDカメラのデザインへのフィードバック」のサイクルを開始するつもりであった。 現状として、600素子MKIDカメラの設計、製作は完了している。しかし、ビームパターン測定系について、設計は完了したが、部品製作及びシステム構築は現在進めている段階であり、実際の測定及びMKIDカメラのデザインの検証はまだ開始できていない。よって、当初の計画よりやや遅れているといえる。 昨年度のもう1つの重要開発項目である、「MKIDカメラの複数チャンネルを同時に測定できる読み出し回路の開発」については順調に進んでおり、昨年度中に複数チャンネルの同時読み出し及びノイズの測定ができることを確認した。 以上、2つの項目について、順調に進んでいる物とやや遅れている物があるため、総合的に判断し、自己評価として「(3)やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
まずビームパターン測定系を構築することが最優先である。測定系に必要な部品の製作は完了しつつあるので、本年度初頭には測定系の構築が完了すると考えている。 また、MKIDカメラのビームパターン測定及び性能評価を効率的に行うためには、開発した読み出し回路をビームパターン測定系に組み込む必要がある。これについては、ソフトウェアの整備等を進めており、測定系が完成すればすぐに組み合わせての試験を行えると考えている。 これらのセットアップが完了した後、製作した600素子MKIDカメラのビーム測定及び性能評価を行う。また、その結果を3次元電磁界シミュレーションの結果と比較することによって、デザインへのフィードバックを行い、サイドローブレベルやビームの対称度を指標として、アンテナデザインやレンズデザイン(特に合成楕円レンズの平面延長部分の寸法)の最適化を行うつもりである。 更に、得られた最適デザインを用いて、宇宙マイクロ波背景放射精密観測用の地上望遠鏡に搭載できるような1000素子規模のMKIDカメラの設計を行うつもりである。
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