研究概要 |
がん発生の瞬間において、変異細胞とその周囲の正常組織との間で如何なる反応が起こるかについては、これまで明らかでなかった。本研究では、そのような初期発がんの様子をリアルタイムに観察しうる新規マウスモデルの樹立に成功し、当該マウスの観察を通して、初期発がん過程における重要な知見が得られた。成果を以下にまとめる(未公開データ)。(1)超初期発がん状態における「変異細胞と周囲正常細胞との相互作用(細胞競合現象として知られる。Curr Biol., Katoh et al, 2012)」をリアルタイムに観察しうる初めてのマウスモデルを樹立した。Vil-CreER;LSL-RasV12-IRES-eGFPに少量のタモキシフェンを投与することで、腸管クリプト内に1-2個程度のRasV12変異細胞をモザイク状に発生させることが可能となった。(2)このマウスと腸管クリプト培養法を併用し、腸管クリプト内に発生させたRasV12(eGFP(+))変異細胞の挙動を顕微鏡下にリアルタイム観察するプロトコールを樹立した。(3)当該ex vivoシステムを用いた観察によって、RasV12変異細胞の多くは、その発生後48時間以内にクリプト管腔側へと積極的に排除されていくことが明らかとなった。(4)マウスin vivoにおいても同様に、モザイク状に少数発生させたRasV12変異細胞の多くが時間経過とともに管腔側へと除去されていくことが明らかになった。(5)さまざまなシグナル阻害薬によって、細胞競合現象が有意に阻害されることが明らかになった。 つまり、哺乳動物生体内においても確かに「細胞競合現象」は存在し、発がんに対する生理的防御反応としての上皮細胞間インタラクションの存在が証明された。今後、初期発がんメカニズムの詳細な分子機構を解明し、さらに新規がん予防薬・がん治療薬の開発を志して研究を進展させたい。
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