研究領域 | 上皮管腔組織の形成・維持と破綻における極性シグナル制御の分子基盤の確立 |
研究課題/領域番号 |
24112508
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
中村 哲也 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 寄附講座准教授 (70265809)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 消化管上皮 / 3次元培養 / 細胞極性 / 大腸上皮培養 |
研究実績の概要 |
大腸上皮の増殖・分化や空間配置調節の破綻のメカニズムは、ヒト大腸疾患における再生不全や発癌に直結することから、その詳細な理解が広く期待されている。申請者は、正常マウス大腸由来上皮細胞を長期にわたり無血清培地中で3次元的に培養維持する画期的技術開発に成功し、かつこの独自の技術で培養される細胞移植で、傷害された腸管上皮の修復が可能であることを明らかにした(Yui et al. Nat Med 2012)。また、本法で得られる培養腸管上皮が薬剤輸送機構など、正常な極性を保つ腸管上皮機能の解析に有用であることを示した(Mizutani et al. BBRC 2012)。本培養法の特徴は、分化細胞を含む正常大腸上皮細胞を、嚢状管腔構造をとり極性をもつ単層細胞として培養可能な点にある。本研究ではこの培養法を利用し、1)単一幹細胞から始まる細胞増殖過程での管腔形成超初期過程、および極性形成の機構を解析すること、および2) 管腔の内腔側-基底側環境差が極性におよぼす影響を解析することを目指している。これまでに、本法がタイトジャンクション、ギャップジャンクション構造など上皮極性維持に重要な構造を維持したまま上皮細胞を培養しうることを見いだし、また嚢状管腔構造の内容物の採取技術の確立を図るなど、in vitroにおける上皮極性形成機構の解析を進めている。本研究をさらに展開することは、消化管上皮が極性を形成・維持する分子機構を明らかにし、さまざまなヒト消化管疾患の病態に関わるこれらの異常の解析に重要な知見を提供するものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度においては、当初の計画にしたがって、以下の予備的解析をおこなった。 1)「培養正常大腸上皮細胞への遺伝子導入技術開発」ここでは、レンチウイルスベクターを用い培養大腸上皮細胞へ効率的に遺伝子導入技術をおこなう技術を確立した。CMVプロモーター支配下にEGFPを発現するウイルスベクターを正常な大腸上皮細胞に導入し可視化するシステムを構築し、遺伝子導入効率をあげる種々の条件を検討した。同時にさまざまな遺伝子プロモーター下流で蛍光蛋白を発現するベクターの作成をおこない、大腸上皮細胞の分化度依存性に遺伝子を発現するシステムの構築をおこなっている。これを用いて、幹細胞・分化細胞各々における膜蛋白、タイトジャンクション構成分子群の発現を蛍光で可視化するシステムを構築する予定である。2)「正常大腸上皮細胞の管腔形成初期相の解析」単一の大腸上皮幹細胞が複数回の増殖を経て生み出される細胞群が、in vitroで嚢状構造を形成する初期過程のライブイメージングの条件を検討した。その結果、200時間を超える安定したイメージングによりこの過程を可視化しうる技術を確立した。3)「管腔側-基底側の環境差と極性解析」管腔構造をとる培養大腸上皮細胞は基底側から管腔側への分子輸送機構を保持している。マイクロアスピレーションにより内腔内容物を採取するための基礎検討をおこなった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度以降は、以下の研究をさらに継続し進める予定である。1)「正常大腸上皮細胞の管腔形成初期相の解析」レンチウイルスベクターを用い正常培養大腸上皮細胞へ遺伝子導入をおこなう技術を利用し、培養大腸上皮細胞が3次元構造をとり管腔形成にいたる過程を、個々の細胞を区別し経時観察可能なシステムを確立する。これにより、一個の細胞から増殖を開始した細胞群がいかなる空間配置を経て管腔形成の超初期過程が進行するかを解析する。2) 「管腔形成初期相における細胞-細胞接着構造の形態学的解析」培養大腸上皮細胞が管腔を形成する過程において、細胞接着に関わる構造(タイトジャンクション・ギャップジャンクション)の形成がいかなる機構でおこなわれるかを、免疫組織染色、透過電子顕微鏡観察、レンチウイルスベクターによる分子発現を利用したイメージングの手法を用いた解析をおこなう。3) 「管腔側-基底側の環境差と極性解析」本法で管腔構造をとる大腸上皮細胞は基底側から管腔側への分子輸送機構を保持している。ここでは、マイクロアスピレーションにより内腔内容物を採取し、網羅的解析により管腔内外の環境差を解析する。
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