器官サイズ制御シグナルHippo伝達系が上皮管腔組織の3次元構築を規定する分子機構の詳細は未解明な点が多い。我々はこれまでにHippoシグナルの下流標的因子YAPのメダカ変異体を単離し、この変異体が神経管や網膜などの上皮組織の破綻という特徴的な表現型を呈することを見出した。そこで本研究では、YAPによる上皮管腔組織の3次元形成機構およびその破綻による管腔形成異常の発症機序を明らかにすることを目的として研究を推進した。1. 生きた個体全体の中で神経管腔組織の破綻を細胞張力の観点から検証するため、張力可視化用センサープローブ (VinTS) をメダカ胚に導入した。蛍光タイムラプス顕微鏡により、メダカ胚における細胞-細胞間張力の組織分布をFRETの蛍光強度の変化として捉えられるか否かを検討した。現在までに期待したほどのFRET 効率は得られていないが、リンカーの種類や長さの変更により様々な改良型張力センサー分子の作製を試み、FRET 効率の最適化を培養細胞にて検討している (未発表)。2. Hippoシグナル伝達系による上皮組織の構築機構を明らかにするため、YAPの様々な機能ドメインに変異を施したmRNAをゼブラフィッシュ胚へ導入し、表現型の詳細な解析を行なった。その結果、YAPのTEAD結合ドメイン、WWドメインおよび転写活性化ドメインの3者が網膜上皮組織の形成過程において重要な役割を果たすことを明らかにした。さらにYAPのWWドメインが網膜の転写因子Rx1のPPXYモチーフと相互作用し、網膜神経細胞の分化のタイミングを制御することを見出した [Asaoka et al. PLoS One (in press)]。
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