私は上皮極性や上皮管腔構造を形成するために、細胞膜脂質が関与しているのかについて研究を行った。上皮細胞のみならず出芽酵母の分裂など、自然界には細胞が極性化する例を見ることが出来る。近年、Par/Crumb/Scribble複合体など上皮細胞の極性形成に寄与する分子群の同定が進んだ。しかし、これらの中で例えば出芽酵母に於いても明確なホモログが存在するのはLglとCdc42だけである。私は、進化的に高度に保存された細胞膜の構成要素である多様な脂質が極性形成に寄与するのではないかという仮説を立て、実験を行った。その結果、上皮細胞のアピカル膜の微絨毛にスフィンゴミエリン(SM)が高度に集積していることを免疫電顕により明らかにした。また既に極性を獲得した上皮細胞でSMを消失させると極性を維持したまま微絨毛のみが失われることを見出した。更にSMと特異的に共役して微絨毛を形成する膜タンパク質複合体(Podocalyxin-1―EBP-50―PIP5Kbeta)を同定した。これらの内容は、論文として報告した(Ikenouchi et al. J Cell Sci. 2013 126:3585-92.)。また三次元培養の開始時からSMを消失させると異常な管腔を持つシストが形成された。この結果よりSMが極性形成に関与することが明らかになり、目下その分子機構を解析中である。
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