研究領域 | 上皮管腔組織の形成・維持と破綻における極性シグナル制御の分子基盤の確立 |
研究課題/領域番号 |
24112521
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
谷口 喜一郎 学習院大学, 理学部, 助教 (20554174)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 細胞老化 / 細胞排除 / 細胞競合 / 非再生系組織 / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
【附属腺での異常細胞排除におけるNotch・JAK-STATシグナルの機能】 異常細胞では、細胞自律的にNotch・JAK-STATシグナルが上昇することを明らかにしている。これらのシグナルについて、異常細胞の排除との関係について調べた。解析の結果、Notch・JAK-STATシグナルを人為的に活性化させても、細胞死は誘導されないことが明らかになった。一方で、Notch・JAK-STATシグナルを抑えることで、異常細胞の排除が顕著に遅れることが明らかになった。以上の結果から、Notch・JAK-STATシグナルは、異常細胞の排除を促進していることが分かった。 【異常細胞において細胞死を誘導するPvrシグナルの機能】 上記のようにNotch・JAK-STATシグナルは細胞死誘導能を持たないことを明らかにされた。そこで申請者は、老化/異常細胞において細胞死を誘導する因子の同定を試みた。paired遺伝子のノックダウンを行い異常状態を再現し、応答シグナルを探索した。その結果、Pvrシグナルが同定された。人為的にPvrシグナルを活性化させることで、一定頻度で細胞死を誘導できた。この結果から、老化/異常細胞における細胞死誘導シグナルはPvrシグナルであることが示唆された。 【隣接細胞における細胞非自律的なJNKシグナルの活性化機構】 排除細胞に隣接する細胞では、JNKシグナルが上昇する。しかしながら、JNKシグナル活性化因子TNFαは、附属腺ではJNKシグナルを活性化しない。そこで、JNKシグナルの活性化する要因について、さらなる解析をおこなった。解析の結果、附属腺においてモザイク状に細胞死を誘導すると、隣接細胞でJNKシグナルが活性化することが明らかになった。この結果から、細胞死・細胞喪失自体が隣接細胞におけるJNKシグナルの活性化を誘導することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画においては、老化/異常細胞の排除におけるNotchシグナルとJAK-STATシグナルの解析を軸として、これらの機能解析を計画していた。しかしながら、予想とは異なり、これらのシグナルは細胞排除において細胞死自体を誘導する因子ではなかった。そこで、当初の計画には無かった、細胞死誘導シグナルの探索をおこない、細胞死誘導シグナルとしてPvrシグナルを同定することができた。これらの解析により、Notch・JAK-STATシグナルは細胞排除促進因子、Pvrシグナルは細胞死誘導因子と予測された。この結果は、当初予測していた仮説(異常細胞で細胞死誘導シグナルが活性化し細胞死がおこる)より興味深いものであり、細胞死と細胞排除は独立かつ連携して起こることを示唆するものである。 また、排除細胞に隣接する細胞での細胞非自律的なJNKシグナルの活性化は、細胞死そのものが引き起こしていることが示唆された。従来、細胞死に関連するJNKシグナルの活性化の主な要因は、分泌型因子TNFαによると考えられてきた。しかしながら、本システムにおいてはTNFαは関与しておらず、細胞死自体による物理的要因が関与する可能性が示唆された。細胞死自体によるJNKシグナルの活性化という液性因子を介さないシステムについては、より検証を行っていく必要があるが、広く保存されているシステムである可能性がある。 その他の計画については、当初の予定を完遂しており、研究目的である“非再生系成体組織における異常細胞の検出・排除システム”の解明に向けて滞りはない。以上の結果を踏まえ、当初研究目的の達成度は“当初の計画以上に進展している”と評価をおこなう。
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今後の研究の推進方策 |
【異常への応答時における異常細胞でのシグナル制御機構の解明】 これまでの研究成果により、1)老化時における細胞排除はPairedレベルの低下に起因する、2)Pairedレベルの低下はNotch・JAK-STAT・Pvrシグナルを誘導する、といったことが明らかになった。さらに、3)Notch・JAK-STATシグナルは細胞排除を促進する、4)Pvrシグナルは細胞死を誘導する、ということが明らかになった。一方で、Pvrシグナルを活性化させた場合でも細胞死を誘導する頻度は低く、Pvrシグナルによる細胞死誘導は単純ではない。以上の結果を踏まえ、Pvrシグナルによる細胞死誘導は、Pairedレベルが低下(Notch・JAK-STATシグナルが上昇)している場合のみに誘導され、これにより異常細胞の限定的な排除がおこなわれるという仮説が考えられた。今後の研究方策では、この仮説について以下の方法で検証をおこなう。 <Pairedレベルに応じたPvrシグナルによる細胞死誘導機構の検証>Pvr強制発現細胞において、paired遺伝子の過剰発現またはノックダウンを行う。このとき、Pvrシグナル誘導性の細胞死の頻度を測定することで、PairedレベルとPvrシグナルによる細胞死誘導の関連性を調べる。 <Notch・JAK-STATシグナルレベルに応じたPvrシグナルによる細胞死誘導機構の検証>Pvr強制発現細胞において、Notch・JAK-STATシグナルの人為的な活性化または抑制を行う。上記の実験と同様に、Pvrシグナル誘導性の細胞死の頻度を測定することで、Notch・JAK-STATシグナルとPvrシグナルによる細胞死誘導の関連性を調べる。
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