研究領域 | 上皮管腔組織の形成・維持と破綻における極性シグナル制御の分子基盤の確立 |
研究課題/領域番号 |
24112522
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
堀田 耕司 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (80407147)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 神経管形成 / 神経管閉鎖 / 細胞周期 / 細胞分裂 / 形態形成 / トラッキング / 4Dイメージング / 画像認識 |
研究実績の概要 |
これまで神経管がどのようにして作られるかという問いに対して、神経板の両端が隆起し、溝をつくるというモデルが提唱されてきた。また、神経管の上層にある表皮が、尾から頭にかけてジッパーを閉じるように移動する現象も、神経管閉鎖の重要な現象として考えられてきた。しかし、未だにこれらの動きの統一的な4D(時空間)モデルは確立されていない。本研究では、ホヤの神経管形成を1細胞レベルで追跡し、管形成の4Dモデルを作り、異なる領域ごとに太さの違う管のできる仕組みの解明を目的とした。まず神経管特異的に発現する遺伝子をクローニングした。その下流に、細胞周期を可視化できる蛍光プローブFUCCIをつないだコンストラクトと、蛍光プローブに核局在シグナルH2Bをつないだコンストラクトを作製した。これらをホヤ胚に導入し、共焦点顕微鏡で4D撮影を行った。得られた動画から細胞動態を解析した。FUCCIでは細胞質への蛍光の漏れにより細胞分裂を追うことができないとわかったので、H2Bコンストラクトで解析を進めた。神経板のa-lineから派生した神経管前方領域では、神経板期に3列を成していた細胞が2列に編成を変えることが観察された。その2列のうち、内側の列の細胞は背側から腹側に移動した。この2列の細胞は将来、神経管の体側側を構成する。このことから、神経管の太さを決める一つの要因として、体軸に沿った細胞列の数の再編成が重要であると考えられる。以上のように本年度は神経管特異的に発現する遺伝子をマーカーとしてホヤ神経管を経時観察することのできる系を構築することができた。今後、4D解析から、細胞の行列の再編成が神経管の太さの制御に寄与していることの決定的な証拠となる映像を取得し、神経管前方領域についての新たな管形成モデルを構築する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
尾芽胚期における神経管の前脳は、脳胞を取り囲む細胞の数を変えることで脳の管の太さを調整していることを明らかにした(Nakamura et al. 2012)。そこで、初年度の計画としてこのように異なる脳の太さを生み出すメカニズムを明らかにするために、ホヤ神経管の4 次元イメージング系の開発を掲げた。当初、神経管特異的に発現を促す遺伝子プロモーターを単離することや、細胞周期を可視化するための蛍光タンパク質の検討に大幅な時間を費やしてしまったが、遺伝子コンストラクトの完成後はホヤ胚のイメージング装置への固定法や長時間の3次元撮影に関してスムーズに研究が進み、最終的に、今年度の目標であった、1-1. 細胞系譜の追跡、1-2. 細胞の形態情報の追跡が可能な4 次元イメージング系の開発を行うことができた。また現在のところ、1-3. 形態形成に関わるカルシウムイオンの可視化のための条件検討も行なっている。以上のことから本研究課題の当初研究目的の達成度については概ね順調に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度確立したホヤ神経管形成過程の4Dイメージング系を用いて、神経管を形成する神経板期76細胞由来の細胞をすべて可視化し、4Dイメージングを行う。得られたZスタック画像をもとに個々の細胞の輪郭抽出後、ボリュームレンダリングを施すことで、細胞レベルでコンピュータグラフィック(CG)画像を取得できる。4Dイメージングから得られた画像データから神経管を形成する76個の細胞の輪郭を抽出し、発生段階ごとにコンピュータ・モデリングを行う。そこから細胞の形態の幾何情報を抽出し、最終的に構成する細胞の増殖、細胞極性、腔所形成、細胞移動を定量的に記録する。CGを構築することにより内腔に接する細胞のみを抽出し、発生過程における内腔との接触面積変化や内腔に接している細胞数変化をカウントすることにより内腔形成過程を細胞の形態変化から解釈する。そして、このような細胞の幾何情報をスタンダードとして神経管閉鎖異常ミュータントの情報と比較することで異常のある細胞を検出する。得られた遺伝子と細胞形態との関係全体を、時系列の観点・空間的な配置との関係から再解析することで標的分子同士の関係、形態形成過程における役割分担の関係性を見出す。そして最終的に神経管形成機構のモデルを構築し、注目した分子の細胞内での動態を定量的かつ経時的に抽出し検証する。
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