研究領域 | 動植物に共通するアロ認証機構の解明 |
研究課題/領域番号 |
24112709
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
広橋 教貴 島根大学, 生物資源科学部, 准教授 (90376997)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 精子 / 走化性 / キャパシテーション / 卵管 |
研究実績の概要 |
動植物共通に存在する重要な配偶子認識システムの1つは、精子または花粉管の卵への誘導である。卵(母)細胞あるいは周辺体細胞が発散する誘引物 質の化学勾配を感知して雄性配偶子は移動の方向を決定する(走化性と呼ぶ)。ほ乳類など体内受精システムの走化性研究は、非生理的化合物に対する 精子受容体の解析が行われている反面、生体内において走化性の存在を示す証拠はほとんどなく、たとえ走化性があるとしても、どのような仕組みで鞭 毛運動に方向性を与えているかその理論さえ存在しないのが現状である。生体内の観察では、受精の場に誘引される精子はごく少数であり、しかも確実 に受精できる精子を(走化性によるかは不明だが)誘引していると思われる。したがってほ乳類体内で実際に起きている精子の卵への誘導はシンプルな 走化性研究ではなく、受精能獲得、超活性化、精子選択など、ほ乳類生殖研究で今後さらに重要となる課題を含んでいる。この巧みな精子誘導現象を精 子ナビゲーション戦略と呼び、そのメカニズムを説き明かすことを最終目的としてきた。精子は卵管内でキャパシテーションという受精に必須な反応を 起こすが、受精場へ到着する精子は先体反応前でキャパシテーション後と考えられている。そこで、キャパシテーションがいつ起こるのか試験管内で精 子先体胞の形態変化に着目した。その結果、キャパシテーションが起こるとされる1時間後では、ほとんどの精子の先体は変化がなかったが、4時間後 の精子は先体胞の膨潤化に似た反応を引き起こし、これらの精子が先体反応を引き起こし易いことを見出した。生体内では、精子射出後、受精場への到 着は3~4時間後と考えられており、一致する。一細胞を詳しく観察すると、膨潤化に似た反応はわずか10秒程度で起こることが分かった。以上から、キャパシテーションにかかる時間やキネチックスについて新知見が得られる可能性がでた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今回、in vitroで観察された先体反応前の精子先体胞の膨潤化が実際、卵管内においていつ、どこで起こるのか突き止めようと共焦点顕微鏡を用いた観察をしてきた が、技術的な困難さために結論に至っていない。先体反応がいつ起こるかという問題と合わせて重要な観察になると期待しているが、技術的困難を克服するのにもう少し時間がかかると予想する。
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今後の研究の推進方策 |
生体内での観察を一時中断し、これまで得られた結果をまとめて論文投稿準備に取りかかったところである。今後は、精子ナビゲーションの全体像を明 らかにするため、最近別のグループによって報告された新仮説を我々の実験系において検証することを計画している。その上で、最近我々が海産無脊椎 動物をもちいて獲られた知見を加味して、再考する。特に「精子誘引は低分子性化合物の濃度勾配によるもの」という一義的な考えから脱却し、実験系 とシュミレーションから新説を構築していくことを目指している。
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