研究領域 | 動植物に共通するアロ認証機構の解明 |
研究課題/領域番号 |
24112710
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
笹浪 知宏 静岡大学, 農学部, 准教授 (80322139)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 精子貯蔵管 / 輸卵管 / Cryptic female choice / 精子 / 受精 |
研究実績の概要 |
鳥類の輸卵管には、精子を長期間貯蔵し生存させるための精子貯蔵管 (Sperm Storage Tubules; SST) が備わっており、SSTの抽出物は、精子の運動を抑制し、インビトロでの精子運動の継続時間を延長させる効果を有することが見いだされた。精子貯蔵管から精子の運動を低下させる成分を同定するために、各種クロマトグラフィーを用いて分画したサンプルの活性を追跡したところ、heat shock protein 70 (HSP70)およびAnnexin (ANX)が精子の運動を変化させる活性を持つことが判明した。遺伝子のクローニング及び発現解析を行ったところ、両遺伝子とも精子貯蔵管の存在する子宮膣移行部での発現が高く、また遺伝子発現は排卵時刻が近づくと上昇することがわかった。さらに、組み換えタンパクを作製し、精子に対する直接効果を確認した。その結果、これらの組換えタンパクは精子内のATP濃度を上昇させ、インビトロでの精子の運動を長期間維持できることが分かった。さらに、これらのタンパクに対する特異的抗体を作製し、抗体の膣内への投与実験の結果から、HSP70およびANXに対する抗体が受精を顕著に阻害することが判明した。さらに、組換えHSP70タンパクと特異的抗体を用いたFar Western blot解析の結果から、HSP70は精子表面の局在するvoltage dependent anion channel protein 2に特異的に結合することが判明した。 名古屋大学鳥類バイオリソースセンターから、これまでに5系統のウズラを入手し、交配実験の結果からQUV系統の受精率が他の系統や野生型と比較して低下していることを明らかにした。また、市販のウズラを用いた交配実験から、野生型においても、受精率には個体差が存在することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
精子の運動調節因子のひとつとして、HSP70およびANXを同定し、その抗体により受精が抑制されることをすでに明らかにしている。また、HSP70の精子側の結合分子としてvoltage dependent anion channel protein 2をすでに同定している。 さらに、受精率の異なる系統を入手し、その特性を明らかにしつつある。
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今後の研究の推進方策 |
野生型のウズラのさらなる交配実験により、受精率の低い個体を選抜し、F1およびF2を作出し、多型解析等を用いて、原因遺伝子の追求を目指す。またQUV系統を実験モデルとした研究においても原因遺伝子の同定を目指す。さらに、野生型における受精率の個体差やQUV系統の受精率の低さは、インビトロでの精子-卵膜相互作用の解析から、精子-卵子間の認証の不具合にはないものと予想される。そこで、卵管-精子間における認証機構に不具合が生じている可能性を追求する為に、異なる蛍光色素で染め分けた精子の人工授精実験を行い、精子貯蔵管への侵入、維持および放出の差異を観察したい。 加えて、これまでの研究で明らかになったHSP70の精子側の結合分子、voltage dependent anion channel protein 2から下流のシグナル伝達機構を解析することで精子側での作動機序も明らかにしていきたい。
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