研究領域 | ゲノム・遺伝子相関:新しい遺伝学分野の創成 |
研究課題/領域番号 |
24113501
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
GOTO DEREK 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (40419205)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 植物分子生物・生理学 / 寄生性線虫 / 生物相互作用 / 遺伝的障害 |
研究実績の概要 |
ネコブセンチュウは宿主特異性が低い植物寄生線虫であるが、その非特異的な感染を制御する分子メカニズムはほとんど明らかにされていない。我々は共生微生物である根粒菌との共生に異常を来したあるミヤコグサ変異体において、ネコブセンチュウの感染が大きく低下するという先行結果を得ている。このことはこの変異体の原因遺伝子が線虫の感染においても重要な役割を担うことを示唆している。本研究では当遺伝子の解析を行うことで、植物と線虫間の相互作用機構を解明することを目的にしている。
この変異が線虫感染に必須の機能を欠損しているのか、それとも感染を阻害する機能を獲得しているのか不明であったが、形質転換体を用いたin vitroでの定量的感染検定を行い、この変異が機能欠損型であることが確かめられた。つまりこの遺伝子の機能が線虫の宿主根への正常な侵入に必要で、この遺伝子は和合性の決定に重要な役割を持っているということである。同時に非常に興味深いことに、この変異は二つの異なる段階で和合性に影響を与えることが示唆された。これまで主な表現型は線虫が植物の根に侵入すらしないことであったが、これは光依存的であり、根への光照射なしに感染させると侵入が起こることが明らかになった。しかしこの変異は感染の次の段階にも関わっており、線虫が根に侵入したとしても正常に感染を成立することができなかった。よってこの遺伝子は、寄生者と宿主細胞の間の境界領域において和合性を決定する上で、独立の二つ目の役割を持っていると言える。
また前年度においてこの変異体を変異源処理したM2種子集団を作成することができた。この集団を用いたスクリーニングにおいて新奇の変異体が得られ、より詳細な解析ができると期待される。これは問題の遺伝子と協調的に働く他の遺伝子を発見し、一連の分子機構を解明するために重要な取り組みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度の主な目的は、この変異が線虫感染に通常必要とされる機能の欠損であるか、もしくは感染を阻害するという新しい機能を獲得した変異なのかを明らかにすることであった。計画では毛状根形質転換によって検証する予定であったが、毛状根形質転換に加え、安定形質転換体やヘテロ接合体を用いて確認することができた。その結果、この変異は機能欠損であり、内生のこの遺伝子がミヤコグサへのネコブセンチュウ寄生の和合性を決定するということが確かめられた。同時にこの遺伝子が感染の成立において二つの段階で必要とされることが明らかとなり、この機構の解明に向けた研究の新たな道を示すことができた。
加えて前年度においては上記遺伝子との遺伝学的な相互作用因子を明らかにするための新奇抑圧変異体のスクリーニングを行うために変異体ライブラリを作成したが、2ヶ月前倒しでM2種子ライブラリの作成を完了することができ、予定より早くスクリーニングを開始することができた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究結果によって、この変異体は線虫の感染において機能欠失型の変異をもつことが示唆された。今後は、さらに異なる種のネコブセンチュウであるMeloidogyne incognitaを用いた変異体への感染実験を行い、ネコブセンチュウとの一般的な相互作用における和合性に関する役割を調査する。また我々はこれまでとは異なるミヤコグサエコタイプからTILLINGによって新しいアリルの変異体を見出しており、感染における表現型を解析する予定である。さらに今年度はトマトにおいてこの原因遺伝子のホモログと考えられる遺伝子のノックダウンを行い、植物種を超えた機能の保存性を検証する。
変異源処理したM2集団は作成済みであり、サプレッサー変異体のスクリーニングが現在進行中である。2ヶ月ごとに約3500体の植物をスクリーニング中であり、今年度の中ほどにはスクリーニングが完了する予定である。別のエコタイプのアリルが同様の表現型を示すことが確認できれば、それを用いてマッピングを開始する。スクリーニングによって変異体が得られなかった場合は、感染、非感染の野生型と変異体を用いたmRNA-Seqによって、この変異体の原因遺伝子の下流の標的候補を探索する。
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