研究領域 | ゲノム・遺伝子相関:新しい遺伝学分野の創成 |
研究課題/領域番号 |
24113512
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
佐伯 和彦 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (40201511)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 植物微生物相互作用 / 共生 / 宿主防御 |
研究実績の概要 |
根粒菌とマメ科植物が営む窒素固定共生は、相利共生の代表的な例である。しかし、宿主植物は自然免疫や病原応答類似の手段によって根粒菌に対して攻撃を加える場合や、逆に根粒菌が寄生的に振る舞う場合もある。貧窒素条件下での協調においてもゲノム間の相克が認められることから、これらの共生生物間の攻撃と防御機構の進化を解明することは重要な課題である。本年度は、以下の項目を実施した。 第1には、宿主の防御機構に対する根粒菌の対抗手段はどの様に進化しつつあるのかを3型分泌系に着目して解析した。ミヤコグサ根粒菌MAFF303099株のエフェクターとして、中近東原産のミヤコグサ近縁種との共生に負の効果を持ち、植物病原菌にホモローグの存在するMlr6361を見つけている。今回、3056残基から成るこのタンパク質のドメイン単位での欠失変異株を作製した結果、アミノ末端側からMlr6361の1000~1500残基目のリピート配列ドメインが、負の効果の原因となっていることが判明した。また、通常のダイズ根粒菌とは共生不能なダイズ系統が存在するが、熱帯性ダイズ根粒菌の中には3型分泌系を用いてこれらの系統に有効な根粒を形成する菌株が存在することを証明した。 第2には、寄生的根粒菌に対する宿主からの制裁は存在して進化における選択圧であるのかを解明するモデル実験系の準備である。ミヤコグサ根粒菌の変異株として、ニトロゲナーゼ活性を持たないnifH欠失株、窒素固定能力が半減するnifA2欠失株、共生維持能力の低下したカタラーゼ遺伝子katE欠失株、根粒形成不能のnodA遺伝子の欠失株等のゲノムに異なる蛍光タンパク質遺伝子の導入を行った。各株の存在比率について、新規に導入する蛍光分光光度計を用いた定量条件の検討を進めた。また、別法として、上記変異株に定量PCRに適した特異プライマー配列を持つ人工DNA断片の設計を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施中の以下の2項目は、予定より進行しているものと若干遅れているものがあるが、全体としてほぼ計画したレベルにあると判断している。 1.宿主免疫・防御機構に対する根粒菌の対抗手段はどの様に進化しつつあるのか ミヤコグサ根粒菌MAFF303099株のエフェクターMlr6361について、負の効果の原因となっているドメインを同定できた点は予定通りである。また、熱帯性ダイズ根粒菌の中には、他のダイズ根粒菌系統とは共生しないダイズ品種に有効な根粒を形成するために3型分泌系を用いる菌株が存在することを証明した点は予定以上の進行である。 2.寄生的根粒菌系統に対する宿主からの制裁は存在して共進化における選択圧であるのか(共生能の劣った変異株への制裁の有無の検討) ミヤコグサ根粒菌について、共生能が様々に異なる変異株にそれぞれ別の蛍光タンパク質遺伝子を導入して、菌株の比を迅速定量可能とする系の構築を行っている。現状では、定量条件の検討段階にあり、やや進行が遅れている。なお、別法として定量PCRに適した特異プライマー配列を持つ人工DNA断片の設計は終了し、計画通りである。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、以下の1)~2)を進行させる。 1)宿主免疫・防御機構に対する根粒菌の対抗手段はどの様に進化しつつあるのか ミヤコグサ根粒菌の3型分泌系エフェクターに関し、共生に負に働くMlr6361の機能モチーフを同定するとともに新規エフェクターの探索を継続する。また、熱帯性ダイズ根粒菌の中には3型分泌系を用いて、通常のダイズ根粒菌とは共生不能なダイズ系統に有効な根粒を形成する菌株の存在することを確認したので、ミヤコグサとミヤコグサ根粒菌を用いて、当該3型分泌エフェクターを同定するためのプラットフォームを構築する。 2)寄生的根粒菌系統に対する宿主からの制裁は存在して共進化における選択圧であるのか 蛍光タンパク質等で標識した共生窒素固定能の異なるミヤコグサ菌株を宿主に同時感染させ、宿主側からの制裁の有無に関する解析を継続する。関連して、根粒・根面・根圏と非根圏からDNA抽出を行って菌株存在量を経時解析する実験条件を検討し、定量可能なミニ生態系モデルの構築を目指す。
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