研究領域 | ゲノム・遺伝子相関:新しい遺伝学分野の創成 |
研究課題/領域番号 |
24113513
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
打田 直行 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 准教授 (40467692)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | R遺伝子 / ゲノム / 進化 |
研究概要 |
植物のRタンパク質群は病原因子由来の物質を認識して免疫反応を引き起こすが、各々のRタンパク質は特異的な因子しか認識しない。ゲノムに有限個のR遺伝子しか存在しないので、新たな病原因子には新たなR遺伝子が生まれない限り対応できない。しかし、R遺伝子の多様化メカニズムの知見は極めて少ない。また、種内外の異系統間のF1個体で親の組み合わせにより起こる壊死現象にR遺伝子が関わるケースが存在し、R遺伝子の変化はF1交雑の適合・不適合の変化にも関わる。本研究では、R遺伝子の多様化現象に実験科学的に迫るユニークな系を発見したことを受け、上記の現象について実験科学的な知見を得ることを目指す。 uni-1D変異体は、UNI遺伝子に生じる変異を個体の形態の変化という指標で捉えることが可能となるユニークな変異体である。この変異現象は、DNAにダメージを与えるアルキル化剤のEMSでの処理により飛躍的に高頻度に観察されることがわかっていたが、DNA二重鎖を切断するZeocinとDNA複製と修復にストレスを与えるヒドロキシウレアもまた同様にUNI遺伝子の配列に変化を促した。特にヒドロキシウレアはDNAの修復系の活性を低下させることが知られているので、UNI遺伝子はDNA修復系の活性低下に敏感な状態にある可能性が提起された。そこで、DNA修復系因子の活性との関係を解析したところ、DNA修復系で働くATR遺伝子の機能が欠損したときにUNI遺伝子の変異頻度が上昇することが判明した。 また、uni-1D変異体では植物免疫応答で重要な役割を持つサリチル酸経路が活性化している。そこで、サリチル酸経路が不活性化したuni-1D変異体を作成したところ、変異誘発頻度が有意に低下した。したがって、今回の現象にはサリチル酸経路が関与していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度に行うと予定していた研究計画のうち、UNI遺伝子に焦点を絞った解析はおおむね順調に解析が進んでいる。一方で、ゲノム全体を対象にした解析に関しては、解析に用いるサンプルに由来するゲノムの配列データの取得は順調に進んでいるが、そうして得られたデータの詳細な解析を行うための手法の確立にはまだ少しの時間がかかりそうなので、これを早期に達成したい。
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今後の研究の推進方策 |
UNI遺伝子に焦点を絞った解析から見えて来た知見を受け、この事象に関してゲノム全体を対象にした解析を順次進める。単一のuni-1D変異体を起源とする野生型とuni-1D変異体に関して、独立した系譜として5世代経た複数ラインを確立し、それらに生じる新生SNPを解析するためのゲノムデータは次世代シークエンサーを用いて取得済みである。まずは、このデータの解析を進める。この実験系が順調に機能することが確認できた後は、平成24度に得られた、DNA修復系の関与や、サリチル酸経路の関与に関しても、ゲノム全体を対象にした解析に踏み込みたいと考えている。これら、ゲノムワイドな解析においては、単にSNPの数だけでなく、そのSNPの変異タイプや導入位置に関しても、野生型とuni-1D変異体の間で有為な偏りなどが生じていないか、に着目していくつもりである。これらの作業を順調に進めるために、バイオインフォマティクスに長けた研究者との共同での解析を進めることを考えており、その打ち合せを進めている。
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