母児免疫寛容は免疫学者にとって大きな謎であり、古くから議論や研究の対象とされてきたが、その原理は依然未解明である。また、ヒトにおいても、流産や不育症の原因として免疫系の関与が疑われているが、その詳細は不明である。通常、異なる系統のマウスを交配しても胎仔が拒絶されることは無いが、DBA/2系統のオスとCBA系統のメスを交配した際には約30%の胎仔が拒絶される。しかし、主要組織適合性抗原が関与しないこと以外は、その遺伝要因は全く不明である。本研究では、母仔免疫寛容における免疫抑制受容体PD-1とLAG-3の機能を解析するとともに、両分子の機能を阻害することにより、高頻度に胎仔拒絶を起こすモデルを作製することを目的とする。また、作製したモデルを用いて連鎖解析を行い、ごく限られた系統間においてのみ認められる母仔間の遺伝的コンフクリトの原因を解明することを目的とする。上述の(DBA/2♂x CBA♀)F1の系において、抗PD-1抗体、抗LAG-3抗体を単独あるいは同時に投与したが、拒絶の頻度に大きな影響は観察されなかった。そこで、これまでに報告の無い系統を用いて検討したところ、自己免疫感受性系統であるNZB系統のメスにBALB/c系統のオスを交配し、抗PD-1抗体と抗LAG-3抗体を同時に投与した際に、最も高率(約35%)に胎仔拒絶が確認された。他の組み合わせにおいては、概ね15%以下の頻度であり、PD-1およびLAG-3の機能阻害による影響もほとんど認められなかった。 胎仔拒絶の遺伝要因を連鎖解析にて解析するには、35%の胎仔拒絶率では依然低いため、免疫賦活剤の投与により、胎仔拒絶率の上昇を試みた。LPS、polyI:C、CpG DNAを検討したところ、全て胎仔拒絶率を上昇させたが、LPSとpolyI:Cでは系統による差が減少していた。CpG DNAについては、系統特異性は保持されていたが、個体差が大きく、連鎖解析を行うには不適と判断した。
|