研究領域 | ゲノム・遺伝子相関:新しい遺伝学分野の創成 |
研究課題/領域番号 |
24113517
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
村井 耕二 福井県立大学, 生物資源学部, 教授 (70261097)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ミトコンドリアゲノム / 花成 / エピジェネティック制御 / コムギ / 細胞質置換 |
研究実績の概要 |
連続戻し交配により、近縁野生種Aegilops geniculataの細胞質(ミトコンドリアゲノム)を導入した細胞質置換コムギ系統では、花成促進遺伝子VRN1の発現パターンが変化するために、花成(栄養成長から生殖成長への移行)が遅延することを見出した。VRN1遺伝子は、その発現をエピジェネティックに抑制されており、冬季の低温によってその抑制が解除され、花成が進行する。細胞質置換系統では、ミトコンドリア遺伝子のなんらかの作用によって、低温によるVRN1遺伝子のエピジェネティック状態の変化が抑制されていると考えられる。本研究では、Ae. geniculata細胞質ミトコンドリアゲノム(遺伝子)がVRN1のエピジェネティック発現制御に影響を及ぼす機構を解明する。 1. 細胞質置換系統および正常細胞質系統における表現型解析 人工気象器を用いて、詳細な表現型解析を行った。その結果、低温処理(春化処理)をしない場合、細胞質置換系統は正常細胞質系統より出穂期が約40日遅延した。42日間の春化処理を行った場合でも、細胞質置換系統は約20日出穂が遅延した。春化処理を行った場合、正常細胞質系統は第7葉が止葉となり出穂するが、細胞質置換系統では、第11葉が止葉であった。また、細胞質置換系統では、葉間期も増大していた。 2. VRN1遺伝子のエピジェネティックス解析 バイサルファイト・シークエンス法により、VRN1遺伝子のプロモーター領域のDNAメチル化レベルを調べた。正常細胞質系統では、春化処理前はメチル化レベルが高く、春化処理によって一様にメチル化レベルが低下するが、細胞質置換系統では、TATAボックスの上流で、春化処理後もメチル化レベルが低下しない領域が見出された。さらに、ChIP解析によって、細胞質置換系統では、春化処理後も、ヒストン修飾の抑制状態が保持されることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
真核生物の細胞内には、核ゲノムに加えてミトコンドリアゲノムが存在する。生物体内で起こる高次元の複雑な生命現象は、核ゲノムとミトコンドリアゲノムの複雑に絡み合う遺伝子産物の組合せによる相互作用(ゲノム・遺伝子相関)を通じて決定されているに違いない。近縁野生種Aegilops geniculata細胞質(ミトコンドリアゲノム)を導入した細胞質置換コムギ系統は、花成(栄養成長から生殖成長への移行)が遅延する。コムギの花成では、VRN1遺伝子が中心的な役割を担う。花成促進遺伝子であるVRN1は、その発現をエピジェネティックに抑制されており、低温にあうことによってエピジェネティック状態が変化し、発現レベルが上昇する(春化現象)。本年度の研究では、Ae. geniculata細胞質置換系統において、ミトコンドリア原因遺伝子の何らかの作用により、VRN1のエピジェネティック発現制御が変化する証拠をつかむことができた。
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今後の研究の推進方策 |
1. ミトコンドリア原因遺伝子および核関連遺伝子の同定 コムギ品種「Chinese Spring」(CS)およびAe. geniculata細胞質を導入した細胞質置換コムギ系統((gen)-CS)を、42日間低温処理した後、20℃長日16時間日長で栽培し、第2葉期の葉をサンプリングする。葉からRNAを単離し、次世代シークエンサーによって網羅的に転写産物の比較を行う(RNA-seq解析)。次世代シークエンサーによって解読された塩基配列(リード)は、まず、コムギの完全長cDNAデータにあて、CSと(gen)-CSでどのようなクローンにヒットするか明らかにする。この結果から、(gen)-CSで特異的に発現する核遺伝子を同定する。また、cDNAデータにヒットしなかった配列は、ミトコンドリアゲノム由来であると想定し、CSのミトコンドリアゲノム配列データにあて、ゲノムのどの領域にヒットするか明らかにする(現在、一部進行中)。さらに、リアルタイムPCRによる発現解析により花成遅延に関連するミトコンドリア候補遺伝子を特定する。 2. VRN1をターゲットとするsmall RNAの同定 ミトコンドリア原因遺伝子からの何らかのシグナルにより、VRN1遺伝子のエピジェネティック制御を行っていると考えられる、VRN1遺伝子特異的なsmall RNAを単離し、次世代シークエンサーによる網羅的塩基配列解析あるいはアフィニティー沈降法により、VRN1遺伝子をターゲットとるすsmall RNAを同定する。
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