本研究の目標は,亜種間雑種マウス(B6系統とMSM系統)をもちいてトランスクリプトーム解析をおこない,抽出・同定したアリル特異的な遺伝子発現を指標とすることによって,亜種間雑種における雑種崩壊などの表現型解析につなげることである.この目標を達成するためには,得られたトランスクリプトームデータの解析基盤が必要となる.そこでNCBIやEBIなどのデータベースで既に公開されている亜種間F1雑種マウス(B6系統とCAST/EiJ系統の雑種)のRNA-seqデータ(脳,および肝臓)をもちいて解析パイプラインの構築をおこなった.その結果,既に論文報告されているような既知のゲノム刷り込み遺伝子以外に,B6系統特異的,あるいはCAST/EiJ系統特異的な遺伝子発現を観察した.これらの系統間差異は,その半数以上が親系統における発現差異を反映するタイプであったが(シス型),親系統における発現差異のない雑種特異的な発現差異も観察された(非シス型). また新規のデータとしてB6系統と日本産野生由来MSM系統のF1雑種マウスの精巣および脳をもちいてpolyA+ mRNA-seq解析をおこなった.各々約2000~3000万程度の重複のないリードを取得し解析した結果,約1500の遺伝子座において系統間の遺伝子発現差異がみとめられ,そのうち約900の遺伝子座ではMSM系統における発現が優位であった.興味深いことに,MSMの精巣においてB6のそれよりも高く発現する遺伝子群では,細胞膜関連やレセプターなど細胞間コミュニケーションに関わる遺伝子が多く観察された一方で,B6の精巣で高く発現する遺伝子群では特定の機能に偏るという傾向は見られなかった.これらの遺伝子群で認められた発現の系統間差異はF1雑種においてもアリル間の発現差異として維持されており,シス制御配列の差異が発現に影響している可能性も考えられる.
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