本研究では、シロイヌナズナを用いて、環境変動に呼応した植物ゲノムのクロマチン動態とその構造変化を解析するとともに、脱アセチル化酵素Hda6の機能に焦点を当てることで、「環境変動による植物ゲノムの位相転換」の様態を明らかにすることを大きな目的としている。 そこでまず、ChIP-on-chip法およびChIp-chip法を用いて、定常状態での野生型株およびhda6変異株のエピジェネティック状態について調べたところ、これまでに明らかにしているGypsyおよびLINEに属するレトロトランスポゾン群を間接的にHDA6がゲノムワイドに抑制していた。また、hda6変異株と野生株に対して、抗Hda6特異抗体および抗アセチル化ヒストン抗体を用いたクロマチン免疫沈降実験とFISH解析の結果から、シロイヌナズナHda6はGypsyおよびLINEに属するレトロトランスポゾン群を間接的に抑制することによって、染色体ペリセントロメア領域のヘテロクロマチン構造維持に機能することが示された。 さらに、Hda6はCOPIAタイプのレトロトランスポゾン群をゲノムワイドに直接抑制することによって、世代経過に伴うゲノムの異常増大を抑制する働きがあることを示唆する結果を得た。 これらの結果は、Hda6制御下にあるシロイヌナズナのゲノム高次構造維持機構が、トランスポゾン群の発現制御およびエピゲノム解析等を通して、進化に伴う植物ゲノムのサイズ増大化を解明する上で非常に興味深い知見となった。
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